娘の縁談がまとまり、私は娘と息子を連れて両家顔合わせに出席した。
娘は産婦人科医で、相手は五歳年上の同じ産婦人科医。相手の父は開業医で、将来はその病院を継ぐ予定だった。
順調そのものに見えたが、唯一の不安は院長夫人の存在だった。
席に着くなり、院長夫人は息子を見て眉をひそめた。
「そちらはどなた? ずいぶん若い男性を堂々と連れてくるなんて、さすが母子家庭ですこと」
私は一瞬言葉を失い、娘も目を丸くした。
婚約者が「雪のお兄さんです」と説明し、私も「この子たちが小学生の時に離婚しております」と丁寧に伝えた。
だが、それをきっかけに院長夫人の暴言が始まった。
「離婚している人って、どこかひねくれていらっしゃるわよね」
「生活もお辛かったでしょうし、お子さんたちもまっすぐ育たなかったんじゃないの」
娘はうつむき、目に涙をためた。
院長と婚約者が止めても、院長夫人はやめなかった。
私は静かに事実を伝えた。
私も元夫も医師で、離婚後も同じクリニックで働いていること。
離婚理由は性格の不一致だが、子育てにも生活費にも問題はなく、子どもたちは医師に育ったこと。
けれど院長夫人は聞く耳を持たず、「玉の輿に乗れてよかったわね」「生活保護で暮らしていたんでしょ」とまで言い出した。
婚約者が声を荒げて止めた時、私はようやく異変に気づいた。
この人は、ただの意地悪ではない。
すると婚約者が重い口を開いた。
「母さん、もういいよ。パチンコ依存症だってわかってる」
彼は、自分がこれまで母に援助してきたこと、結婚したらもう助けないと告げたこと、そして父には認知していない娘がいて、自分がその妹の学費まで負担していることを明かした。
院長は愕然とし、娘も息子も言葉を失った。
婚約者は最後に、私たちに頭を下げた。
「こんな家庭環境です。受け入れていただけないなら、雪ちゃんとの婚約は諦めます」
私はすぐに首を振った。
「とんでもない。あなたが雪の相手でよかった」
すると娘は涙を拭い、はっきりと言った。
「お母さまの支えにはなれないかもしれません。でも進さんの支えにはなりたいです。妹さんのことも一緒に支えます」
その後、娘と婚約者は結婚した。
院長夫人は施設で治療を受け、愛人は身を引き、隠し子は認知された。
婚約者は大学病院の医局長となり、娘と二人三脚で歩んでいる。
そしてこの修羅場を目の当たりにした息子は、いまだ独身を貫いている。