初孫の産声を聞いた直後、夫が「今すぐ出るぞ」と言った理由に震えた、あの夜すべては終わっていなかった
2026/04/13

広告

分娩室の前で、私たちはただ待っていた。

長い時間が過ぎ、ようやく聞こえた産声。

その瞬間、胸がいっぱいになった。

生まれた。

無事に。

そう思った。

でも次の瞬間、夫の様子がおかしかった。

「もう行くぞ」

強く腕を掴まれ、私は引きずられるように廊下を出た。

理解が追いつかないまま、外へ。

車に乗り込んだあと、ようやく聞いた。

「どうしたの?」

夫は静かに言った。

「聞こえなかったのか?」

「何が?」

「“助けて”って」

その一言で、空気が変わった。

私はすぐに否定した。

「そんなはずない。赤ちゃんの声でしょ」

でも夫は首を振った。

「違う。俺はドアの近くにいた。看護師の声も聞いた。“呼吸が弱い、準備して”って」

その瞬間、記憶が蘇る。

確かに、慌ただしい声が混じっていた。

でも私は、いい方にしか考えなかった。

夫は続けた。

「周りの空気がおかしかった。誰も“無事です”って言ってなかった」

言われてみれば、そうだった。

喜びの空気の中で、

決定的な一言だけがなかった。

広告

「じゃあ戻るべきじゃないの?」

私が言うと、夫は即答した。

「今戻っても入れない。むしろ邪魔になる」

そして続けた。

「でも、このまま待つだけは危ない」

夫はスマホを取り出した。

「主治医に直接確認する」

数分後、電話が繋がる。

短いやり取りのあと、夫の表情が変わった。

私は聞いた。

「……どうだったの?」

夫はゆっくり言った。

「やっぱり、状態が良くないらしい。今、蘇生処置してる」

頭の中が真っ白になった。

さっきの産声は、

終わりじゃなかった。

むしろ——

始まりだった。

「どうして教えてくれないの……」

思わずこぼれる。

夫は低く答えた。

「パニックになるからだろうな。でも、それで判断が遅れることもある」

その言葉が、現実を突きつけた。

私たちはそのまま、必要な連絡を回した。

娘の夫の家族。

万一に備えて動ける人。

すべて、先回りした。

しばらくして、病院から正式な連絡が来た。

「現在、処置中です」

やはり、何も終わっていなかった。

あの産声は、

“無事の合図”じゃなかった。

私は初めて理解した。

あの瞬間、夫だけが

“現実”を聞いていた。

あの夜、産声は「始まり」だった。

広告

AD
記事