息子が顔を腫らして、泣きながら帰ってきた。
玄関のドアを開けた瞬間、
ただ事じゃないと分かった。
左の頬骨のあたりが赤黒く腫れている。
少し青く変色していて、
明らかに強い衝撃を受けた顔だった。
「どうしたの?」
そう聞くと、
息子は少し黙ったあと、小さな声で言った。
「公園で……蹴られた」
一瞬、
意味が分からなかった。
「誰に?」
「同じクラスのやつ……」
しかも、
後ろから突然だったらしい。
友達と座ってゲームをしていた時、
急に後ろから蹴られた。
倒れたあと、
さらに背中も蹴られたという。
周りにいた友達が止めてくれたから、
それ以上はなかったらしい。
でも、
聞けば聞くほど異常だった。
これは喧嘩じゃない。
完全に一方的な暴力だった。
しかも——
「それ、初めてじゃないよね?」
そう聞くと、
息子は小さくうなずいた。
去年も、
同じ相手に殴られている。
その時は学校から、
「子供同士の問題なので」
「双方で話し合って解決を」
そう言われた。
正直、
私は納得していなかった。
でも、
これ以上大きくしたくない気持ちもあった。
息子が学校で気まずくなるのも嫌だった。
だから、
こっちが引いた。
——その結果がこれだった。
またやられた。
しかも今回は、
顔面を蹴られている。
その瞬間、
もう我慢する理由はないと思った。
怒りで、
手が震えた。
でも、
感情だけで動いたらダメだと思った。
まず病院へ連れて行った。
診察結果は打撲。
ただ、
かなり強くぶつけているため、
しばらく経過観察が必要と言われた。
私は診断書を書いてもらった。
そこでようやく、
頭の中が整理された。
これはもう、
“子供の喧嘩”じゃない。
次の日、
学校へ電話した。
担任は最初、
少し困ったような声で言った。
「本人たちの間でトラブルがあったようで……」
——その言い方で分かった。
また軽く終わらせる気だ。
私ははっきり言った。
「トラブルじゃなくて、一方的に蹴られてますよね?」
一瞬、
電話の向こうが静かになった。
「詳しく確認しますが……」
またそれだった。
その瞬間、
私は決めた。
「今から学校に行きます」
電話を切り、
そのまま学校へ向かった。
職員室に入った瞬間、
空気が変わった。
担任と教頭が出てきた。
私は席にも座らず言った。
「本人と、その親を呼んでください」
逃げ道を塞ぐように、
はっきりと。
少し戸惑っていたけど、
こちらが引く気がないことは伝わったと思う。
しばらくして、
加害側の生徒が連れて来られた。
下を向いたまま、
目を合わせない。
私は静かに聞いた。
「どういうつもりでやったの?」
最初は黙っていた。
でも、
沈黙に耐えきれなくなったのか、
小さな声で言った。
「ふざけて……」
私は耳を疑った。
ふざけて?
顔を蹴るのが?
その瞬間、
完全に線を引いた。
私は診断書を机に置いた。
「これ、警察案件ですよね?」
その一言で、
空気が凍った。
教頭の顔色が変わった。
「いえ、その……そこまででは……」
慌てて否定した。
でも、
もう止まらなかった。
「顔面への暴力です」
「しかも2回目ですよね?」
「これでも“子供同士の喧嘩”ですか?」
誰も、
すぐには答えられなかった。
その後、
加害側の親も呼ばれた。
最初は事情が分かっていなかったみたいだけど、
内容を聞いた瞬間、
表情が変わった。
「申し訳ありません……」
その謝罪が出たのは、
その時が初めてだった。
そして不思議なくらい、
学校の態度も急に変わった。
今までの曖昧な言い方は消え、
正式に指導と対応を行うと言い出した。
正直、
最初からそうしてほしかった。
なんで、
ここまでやらないと動かないのか。
でも、
それが現実なんだと思った。
帰り道。
息子がぽつりと言った。
「もうあいつと関わりたくない」
それが、
一番本音だったんだと思う。
だから私は言った。
「もう大丈夫」
「今回はちゃんと終わらせるから」
一度引いた結果、
またやられた。
だから今回は、
引かなかった。
子供を守るって、
“穏便に済ませること”じゃない時もある。
私はあの日、
それを痛いほど思い知った。