面接中、私は会長の言葉よりも、その胸元に揺れる銀色のネックレスから目を離せなかった。
半分に割れたハート型。古びた銀の光。
それは、幼い頃から父が大切にしまっていたネックレスと、あまりにも同じだった。
「そのネックレス……父のものと同じです」
思わずこぼれた一言に、面接室の空気が凍った。
大手企業グループの会長、黒田彩子。
冷静で隙のない女性として知られる彼女の表情が、その瞬間だけ大きく揺れた。会長は無意識に胸元へ手を伸ばし、まるで失くした記憶を確かめるようにネックレスを握りしめた。
面接は予定より早く打ち切られた。私は不合格を覚悟してビルを出た。けれど、心の中では合否どころではなかった。なぜ会長が父と同じものを持っているのか。なぜ父はあのネックレスを見るたび、静かに涙を流していたのか。
翌日、信じられないことが起きた。
黒田会長が、突然うちを訪ねてきたのだ。
玄関に出た父の顔から、一瞬で血の気が引いた。父は何も言わず、古い木箱を取り出した。中に入っていたのは、もう半分のハート型ネックレスだった。
会長のものと合わせると、二つはぴたりと重なり、一つの完全なハートになった。
その瞬間、父は三十年隠してきた過去を語り始めた。
会長はかつて、財閥の娘である身分を隠し、父と恋に落ちた。二人は小さな部屋で暮らし、私という子どもを授かった。けれど会長の家族はそれを許さなかった。
ある雨の夜、会長は事故に遭い、記憶を失った。父との日々も、私を産んだことも、すべて忘れてしまった。
父は私を抱きしめ、たった一人で育てた。
会長は震える手で私の頬に触れた。
「あなたが……私の子なの?」
その声を聞いた瞬間、父の目から涙がこぼれた。
面接で見つけたネックレスは、偶然ではなかった。
失われた親子の時間をつなぐ、たった一つの証だった。