深夜、赤ちゃんの泣き声を気にしていた―― 翌日ポストに入っていた一枚の紙に、胸が詰まった
2026/05/05

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夜になるたび、私たち夫婦は緊張していた。
理由は、生まれて間もない赤ちゃんの夜泣きだった。

抱っこしても泣く。
やっと寝たと思えば、また泣き出す。
時計を見ると深夜二時。

私は赤ちゃんをあやしながら、夫と不安そうに顔を見合わせた。
「……隣、大丈夫かな」
口に出さなくても、考えていることは同じだった。

集合住宅の夜は静かだ。
壁は薄くないはずなのに、赤ちゃんの泣き声だけは想像以上に響いている気がした。

「苦情が来たらどうしよう」

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「管理会社から連絡が来たら?」

そんなことばかり考えながら、私たちは毎晩、周囲に謝るような気持ちで過ごしていた。

そんなある日。
仕事から帰宅した私は、ポストに紙が入っていることに気づいた。

封筒ではなく、折りたたまれた紙が一枚だけ。
差出人の名前はなかった。

私は一瞬で嫌な予感がした。
「……苦情かもしれない」

胸がぎゅっと縮む。
深呼吸をしてから、私はゆっくり紙を開いた。

そこに書かれていたのは、想像とはまったく違う言葉だった。

「夜遅くに赤ちゃんの声が聞こえることがありますが、まったく気にしないでくださいね。

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むしろ、こちらの生活音のほうがご迷惑をおかけしていないか心配しています。」

私は立ったまま動けなくなった。

さらに続きを読む。

「子育ては大変だと思います。
どうか無理をなさらず、赤ちゃんのペースで過ごしてください。」

丁寧な手書きの文字だった。
そこには責める言葉は一つもなく、私たちを気遣う言葉だけが並んでいた。

読み終えた瞬間、胸の奥に溜まっていた重たいものが、すっとほどけていく気がした。

私たちはずっと、「迷惑をかけていないか」ばかり気にしていた。
でも隣の人も、「自分たちの音が迷惑になっていないか」と気にしてくれていたのだ。

同じ壁を挟んで、お互いがお互いを気遣っていた。

そう思った瞬間、涙が出そうになった。

赤ちゃんの泣き声は確かに大きい。
でも、それはわざとじゃない。
生きるために必要な、たった一つの意思表示だ。

それ以来、夜泣きがあっても、以前ほど追い詰められなくなった。
もちろん気遣いは必要だ。
それでも、「誰かに責められているかもしれない」という恐怖は確実に薄れた。

子育ては孤独だ。
正解が分からないまま、毎日を必死に過ごしていく。

だからこそ、あの日ポストに入っていた一枚の紙は、私たちにとって救いだった。

派手な出来事ではない。

ニュースにもならない。
それでも、人の心を支える優しさは、確かに存在するのだと思った。

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