働き始めてすぐ違和感は出ていた。
会話は多いのに、仕事は進まない。
外出すると「準備」で数時間消える。
簡単な作業でも、なぜか時間が何倍にも膨らむ。
注意すると体調不良を訴えて、その場で崩れる。
強く言えば周囲が止めに入る。
気づけば、誰もきちんと指摘できない空気ができていた。
そしてある日、彼女は言った。
「子ども、やっぱり引き取りたいんです」
その瞬間、職場の空気が一度止まった。
仕事中の子どもの預け先について聞くと、
「みんなで見てくれると思ってました」と当然のように言う。
冗談ではなく、本気だった。
数日後、本当に子どもを連れてきた。
「預け先がないから」と言って。
ここで初めて、会社として明確に止める判断が出た。
ここは保育園ではない、と。
しかし彼女の反応は理解ではなく反発だった。
「子どもを放り出せって言うんですか!」
その言葉に、周囲の温度が一気に下がった。
結局、子どもの預け先が決まるまで休むようにと言い渡された。
だがその後、彼女は体調不良で倒れ、親戚が迎えに来た。
そのまま出勤は止まり、結果的に雇用も終了となった。
後日、彼女の保証人が来たとき、こちらを見る目は少しだけ冷たかった。
おそらく、話は違う形で伝わっているのだろう。
ただ、現場にいた全員が感じていたのは一つだった。
“やり直したい”という言葉は、
やる気ではなく準備のない現実を隠すこともある、ということ。
静かに職場だけが、その代償を払わされていた。