結婚して三年が過ぎても、私たちに子どもはできませんでした。
病院へ通い、検査を受け、薬を飲み、不妊治療も始めました。
それでも、責められるのはいつも私だけでした。
「お前が産めないからだ。」
「うちには跡取りが必要なんだ。」
義両親は何度もそう言い、元夫も一度も私をかばってはくれませんでした。
「子どもができないなら離婚しよう。」
その一言で、私の結婚生活は終わりました。
泣きながら荷物をまとめ、家を出た日のことは、今でも忘れられません。
離婚してから私は地元を離れ、隣県で一から生活をやり直しました。
新しい仕事を始め、そこで今の夫と出会いました。
過去の話を打ち明けても、彼は笑って言いました。
「子どもがいてもいなくても、一緒に生きていけたらそれでいい。」
その言葉に、私は初めて救われた気がしました。
再婚してしばらくすると、信じられないことが起きました。
妊娠です。
涙が止まりませんでした。
妊娠中は決して順調ではありません。
切迫流産で入院し、退院したと思えば今度は切迫早産。
何度も不安になり、そのたびに夫は仕事帰りに病院へ来て、
「大丈夫。焦らなくていい。」
と手を握ってくれました。
そして無事に第一子を出産。
さらに数年後、第二子も授かりました。
お腹も大きくなったお正月。
家族で久しぶりに地元へ帰省した時でした。
商店街で、元夫と義両親にばったり会ったのです。
一瞬で時間が止まりました。
元夫は私を見るなり固まりました。
そして息子へ視線を移し、最後に私のお腹をじっと見つめました。
義両親も同じでした。
誰一人、言葉を発しません。
一番驚いたのは、元夫の姿でした。
私より十一歳年上だった彼は、まだそこまで高齢ではないはずなのに、まるで十年も二十年も一気に歳を取ったように見えました。
髪は薄くなり、背中も丸く、以前の面影はほとんどありませんでした。
私は軽く会釈だけして、その場を離れました。
もう振り返ることはありませんでした。
数日後、地元の友人から連絡が来ました。
偶然、元夫の会社へ派遣されているそうです。
「この前ね、お酒の席であなたの話をしてたよ。」
嫌な予感がしました。
「若い男に乗り換えた。」
「あんな女だとは思わなかった。」
そんなふうに私を悪者にしていたそうです。
さらに聞かされたのは、元夫も再婚して子どもが生まれたものの、その後奥さんと子どもに出て行かれ、今は一人だという話でした。
私は少しだけ複雑な気持ちになりました。
離婚した時、元夫は慰謝料を払い、
「本当にごめん。」
と謝ってくれたからです。
だから私はずっと、
少なくとも罪悪感くらいは持ってくれている人だと思っていました。
でも違いました。
心の中では、ずっと私を悪者にし続けていたのです。
その話を聞いた瞬間、不思議なくらい気持ちが軽くなりました。
あの人に理解してもらいたい。
認めてもらいたい。
そんな気持ちは、もうどこにも残っていませんでした。
家へ帰ると、息子が「おかえり!」と飛びついてきました。
夫は私のお腹に手を当てながら、
「今日も元気に動いてるね。」
と笑っています。
私はその光景を見て、心から思いました。
あの時、離婚して本当に良かった。
「子どもが産めない女」と捨てられた私は、
今では愛する夫と二人の子どもに囲まれて暮らしています。
人生は、一度終わったように見えても終わりではありません。
あの日に失ったものより、あの日に手放したことで手に入れた幸せのほうが、ずっと大きかったのです。