「どうしよう……妊娠しちゃった。」
検査薬の陽性反応を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。
旦那とは排卵日前日の夜に避妊なしで関係を持った。
その翌日の夕方、生活費を援助してもらっていた男性とも関係を持った。でも、その人は最初から最後まで避妊具を使っていた。
私は震える声で電話した。
「もし妊娠してたら……」
相手は即答した。
「俺は避妊失敗してない。ちゃんと付けてた。」
「あ……そうなの?」
私は自分に言い聞かせるように笑った。
「じゃあ旦那の子だよね。ちょうど排卵日だったし……」
その言葉を、一番信じたかったのは私自身だった。
旦那は病気で仕事を辞め、ようやく再就職が決まったばかりだった。
お金が足りず、私は昔知り合った男性に生活費を援助してもらっていた。
最低だと分かっていた。
でも、あの頃は生きることだけで必死だった。
妊娠を報告すると、旦那は子どものように喜んだ。
「やっと来てくれたんだな。」
その笑顔を見るたび、胸が苦しくなった。
「絶対に旦那の子。」
私は毎日そう唱えていた。
そして男の子が生まれた。
旦那は仕事が終わると真っ先に家へ帰り、夜泣きも嫌な顔ひとつせず抱っこしてくれた。
「パパだぞ。」
そう笑う姿を見るたび、罪悪感だけが大きくなっていった。
しかし数年後、親族の何気ない一言が空気を変えた。
「全然お父さんに似てないね。」
笑って流した。
でも旦那だけは、その言葉を流せなかった。
ある日、静かに封筒を差し出された。
「会社の福利厚生で親子鑑定が安く受けられるんだって。」
私は息が止まった。
「そんなの必要ないよ。」
「俺もそう思いたい。でも、不安なんだ。」
結果が届いた日。
旦那は封筒を開け、何も言わなかった。
ただ、一枚の紙を私の前へ置いた。
「親子関係は認められません。」
視界が滲んだ。
私は泣きながらすべてを打ち明けた。
援助を受けていたこと。
一度だけ関係を持ったこと。
「避妊してたから、大丈夫だと思ったの……。」
旦那は長い沈黙のあと、小さく言った。
「子どもに罪はない。」
私は泣きながら頷いた。
「でも。」
その一言で、すべてが終わった。
「お前を信じ続けた俺の人生は、もう戻らない。」
その後、私たちは離婚した。
あの日、「きっと大丈夫」と自分に言い聞かせた一度の逃げ道が、人生で一番大きな代償になった。