
イオンで買い物をしていた時のことだった。
さっきまでイヤイヤ期の2歳児と格闘していて、正直かなり疲れていた。
やっと落ち着いたと思った瞬間、
「トイレ!」と小さな声で言われた。
急いでトイレへ向かう。
子どもは小走りで女子トイレに入っていった。
その直後だった。
「ちょっと!!男の子は女子トイレ入ったらダメよ!」
突然、後ろから怒鳴り声が飛んできた。
振り返ると、知らない女性が腕を組んだままこちらを睨んでいる。
「最近の親って本当に常識ないですね!」
一方的に責め立てられて、
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
とりあえず子どもの後を追って中に入り、
個室で用を済ませる。
でも外からはまだ声が続いていた。
「男の子が女子トイレにいるだけで怖い人もいるんですよ!」
正直、余裕がなかった。
でもこのまま終わらせるのも違うと思った。
手を洗って、ゆっくり振り返る。
その女性はまだこちらを睨んでいた。
周りの人も、ちらっとこちらを見ている。
誰も何も言わない。
私は小さく息を吐いた。
「2歳の子を外で待たせろって?」
女性は一瞬だけ黙った。
でもすぐに言い返す。
「男の子は男子トイレに行くべきです!常識でしょう!」
私は思わず小さく笑った。
「そっちの方が非常識でしょう」
「2歳の子を一人にする方が危ないですよ」
少し空気が変わる。
でも女性は引かなかった。
「とにかく男の子は男子トイレです!」
私はもう一度ため息をついた。
そして子どもを呼ぶ。
小さな背中に手を置いた。
その瞬間、
女性がまた口を開きかけた。
その前に、私は言った。
「この子、女の子です」
空気が止まった。
女性の表情が固まる。
周りで見ていた人たちも、一瞬動きを止めた。
言葉が出てこない様子だった。
私はそのまま続けた。
「それと——」
ほんの少しだけ間を置く。
「私も女として生まれて、女として生きてますけど」
完全に沈黙だった。
さっきまであれだけ強く言っていた女性は、
何も言えなくなっていた。
視線だけが泳いでいる。
そのまま子どもの手を引いて、
足早にトイレを出ていった。
後ろ姿がやけに小さく見えた。
私は子どもの手を握り直して、
ゆっくり外へ出た。
さっきまでの騒ぎが嘘みたいに静かだった。
そして思った。
本当にいるんだな、
こういう人。
でも——
一番決めつけていたのは、
あの人の方だったんだと思う。