「健太、早く写真撮って!」
青い海を背景に笑う桜。
大学生だった二人は将来を約束した恋人同士だった。
しかし、その夏を最後に消息を絶った。
家族は必死に探した。
警察も捜索した。
だが発見できたのは海岸に残されたわずかな痕跡だけだった。
やがて事件は「海難事故」として片付けられた。
健太の母は納得できなかった。
「うちの子が何も言わずにいなくなるはずないんです」
だが時代は流れていった。
そして15年後。
海洋調査隊が無人島の洞窟で二人の遺骨を発見する。
さらにリュックの中から一台のカメラが見つかった。
捜査を担当した鈴木警部は言った。
「このカメラが全てを知っているかもしれない」
復元された写真には楽しそうな二人の姿が残されていた。
しかし調べるほど違和感が増えていく。
民宿の主人は言った。
「二人は仲の良い恋人同士でした」
だが別の宿泊客は証言する。
「毎晩のように喧嘩していましたよ」
さらに健太の日記から意味深な言葉が見つかる。
――桜の秘密を知ってしまった。
鈴木警部は眉をひそめた。
「何かがおかしい」
調査を進めると桜には秘密の顔があった。
貧しい学生だったはずなのに、高級ブランド品を持ち歩いていた。
銀行口座には毎月大金が振り込まれている。
やがて桜が銀座の高級クラブで働いていた事実が判明する。
そして失踪直前。
謎の100万円が振り込まれていた。
振込人を辿った先で浮上したのが、二人が宿泊していた民宿「かもめ荘」の息子だった。
「事件はここから始まっていたのか……」
さらに捜査は驚くべき方向へ進む。
匿名の電話が入ったのだ。
「大野を調べろ」
「無人島で密輸をしていた」
「秘密を知った人間は全員消された」
調べてみると、過去にも不自然な失踪事件がいくつも発生していた。
全てに共通していたのは――
かもめ荘だった。
鈴木警部は確信した。
「事故じゃない」
「これは連続殺人だ」
そしてついに民宿の息子・武志が逮捕される。
最初は否認していた。
だが証拠が揃い始める。
そして決定打となったのが、洞窟から見つかったカメラだった。
最後の一枚。
そこには恐怖で顔を歪める桜の姿が写っていた。
そして背景には船の錨。
そこに刻まれていた文字は――
「S.O」
民宿主人・大野の船だった。
追い詰められた武志は泣き崩れた。
「父が怖かったんです……」
真相は残酷だった。
大野は長年密輸組織を運営していた。
桜は組織の金を持ち逃げしようとしていた。
健太はそんな桜を守ろうとしていた。
それを知った大野は二人を無人島へ連れ出した。
そして――。
健太を殺した。
逃げる桜も追い詰めた。
桜は最後の力でカメラのシャッターを切った。
それが15年後、自分たちを裁く証拠になるとも知らずに。
裁判で大野には死刑判決。
武志には懲役15年。
15年間眠っていた事件はようやく終わった。
だが誰も笑わなかった。
健太の母は遺骨を抱きしめて泣いた。
「やっと帰ってきたね……」
桜の両親も声を上げて泣き続けた。
もっと早く真実が分かっていれば。
もっと早く捜査されていれば。
そんな思いだけが胸に残った。
それでも一つだけ確かなことがあった。
真実は消えない。
隠したつもりでも消えない。
15年間海の底で眠っていた一台のカメラが、それを証明したのである。
そして最後の一枚の写真は、沈黙していた海よりも雄弁に真実を語り続けたのだった。