離婚に向けて荷造りを進めていた最中だった。段ボールに衣類を詰め、静かに現実を整理していた私の耳に、夫の声が飛び込んできた。
「ねーちゃんが甥の弁当はどうするって」
私は一瞬、動きを止めた。
しかし、すでに私の中では“他人”という認識がはっきりしていたため、すぐには返事をしなかった。
すると夫は苛立ったように声を荒げた。
「耳がねーのかよ!」
その言葉に、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
私はゆっくりと顔を上げ、静かに答えた。
「もう他人なんだけど?」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
今まで当然のように続いていた“夫婦”という関係が、音を立てて崩れていくような感覚だった。
しかし夫はまだ現実を理解していないのか、眉をひそめたまま私を見ていた。
「何言ってんだよ、まだ離婚届出してないだろ」
その言葉に、私は小さく息を吐いた。
すでに気持ちは決まっている。書類の有無ではなく、関係そのものが終わっているという事実だけが残っていた。
私は荷造りの手を再び動かしながら、淡々と答えた。
「だからこそ、もう関係ないって言ってるの」
その静かな一言に、夫の表情がわずかに揺れた。
しかし、それ以上何かを言うことはなかった。
部屋には段ボールを閉じる音だけが響いていた。
そして私は、過去の生活を一つずつ箱に詰めながら、確かに終わりへと向かっていた。