四十九日の法要が終わった翌日、珍しく早く帰宅した夫は、私の前に署名済みの離婚届を突きつけた。そして薄笑いを浮かべながら、「用済みだから離婚な。タダで赤の他人のジジイの下の世話、ご苦労様」と言い放った。私は書類を見下ろし、それから夫の顔を見て、静かに笑った。「何か勘違いしてるわね。お父さんは、もうあなたの父親じゃないのよ」夫が目を見開いて「は?」と固まる中、私は本棚からファイルを取り出して差し出した。
私、ひさこは45歳の銀行員。夫・健太、息子・達也と義実家で同居していた。義父は優しく働き者で、達也の面倒もよく見てくれた。けれど夫だけは、義母の死を勝手に義父のせいだと思い込み、酒を捨て、暴言を吐き、ずっと義父を粗末にし続けていた。義父が倒れて介護が必要になっても、世話をしたのは私と達也だけ。夫は介護を拒み、浮気をしながら家にも寄りつかなくなった。
やがて義父は亡くなり、最期を看取ったのも私と達也だった。
そして法要の翌日、夫は愛人と再婚すると言って離婚を迫ってきたのだ。
私はファイルの中身を見せた。そこには、夫を勘当する義父の正式な書類と、自筆の手紙が入っていた。介護を押しつけ、通帳を漁り、浮気相手と再婚して私たちを追い出すつもりだったことも、すべて義父は知っていた。さらに遺産は夫には法定相続分しか渡さず、残りは私と達也に託すと書かれていた。
青ざめる夫に、私は続けて登記簿も見せた。「この家、もう私名義よ。生前贈与でお父さんが譲ってくれたの」夫はその場に崩れ落ちた。
私は離婚届にすぐ署名し、荷物をまとめて玄関の外へ放り出した。泣き叫ぶ夫に、達也が冷たく言い放つ。「お前なんか、もう家族じゃない」その言葉で夫は黙り込み、やがて消えた。
その後、夫は愛人にも捨てられ、慰謝料も支払うことになった。私は復職し、子育ても介護も終えた今、自分の人生を穏やかに楽しんでいる。義父が最後に守ってくれた未来を、私はこれから大事に生きていく。