久しぶりに弟の大我と飲みに出かけた夜、私は軽い気持ちで一軒のバーに入った。薄暗い店内はどこか怪しく、それでも最初はただの洒落た店だと思っていた。ところが、出されたのは酒と乾き物だけ。会計の場になると、店員は平然と「百万円になります」と告げた。あまりに非常識な金額に私が言葉を失っていると、男はさらに口元を歪め、「早く払えよ。払えなきゃヤクザ呼ぶけど?」と脅してきた。
私は恐怖で体が固まり、「そんな……」としか言えなかった。だが、その隣で大我だけは驚くほど落ち着いていた。弟は椅子にもたれたまま、低い声で「じゃあ呼んでみろよ」と一言だけ返した。その静けさが、かえって不気味だった。
数分後、店に現れたのは本当に数人の男たちだった。私は終わったと思った。ところが次の瞬間、彼らは大我の顔を見るなり、一斉に表情を変え、その場で土下座したのである。店員は何が起きたのか分からず青ざめた。大我は冷ややかに、彼らがかつて自分の下にいた人間であり、しかも今は組から追われた身でしかないことを明かした。
立場が逆転した店内で、先ほどまで威勢の良かった店員は震えるばかりだった。大我は短く指示を出し、不当請求の証拠を押さえたうえで、店側にも男たちにもきっちり責任を取らせた。帰り道、私はようやく安堵の息をつきながら、隣を歩く弟の横顔を見た。やはり大我は、ただ者ではなかったのだと、改めて思い知らされた。