結婚して3年になる。
俺たちは共働きだ。
俺の年収は600万。
嫁は450万。
子どもはいない。
だから俺はずっと思っていた。
今が一番自由な時期だと。
せっかく二馬力なんだから、
多少贅沢してもいいじゃないかと。
実際、嫁も文句を言わなかった。
俺が新しいスマホを買っても、
タブレットを契約しても、
趣味の買い物で数万円使っても、
嫁は笑っていた。
「いつも仕事頑張ってるもんね」
その言葉に甘えていた。
完全に。
きっかけは正月だった。
実家へ帰省した時、
母が突然言った。
「嫁ちゃんにも服買ってあげなさいよ」
俺は笑った。
何を言ってるんだと思った。
嫁だって働いている。
欲しければ買うだろう。
そう思った。
でも帰宅後、
ふと嫁の服を見て気付いた。
同じ服ばかりだった。
そういえば最近新しい服を見ていない。
美容院もいつ行った?
思い出せない。
気になって聞いてみた。
「最近服買った?」
嫁は首を振った。
「何年も買ってないかな」
俺は驚いた。
「なんで?」
すると嫁は当たり前のように言った。
「家計の補填してるから」
意味が分からなかった。
俺たちは共働きだ。
生活は苦しくない。
そう思っていた。
だから正月セールで服を買わせようとした。
でも嫁は断った。
「来月あなたのコート代請求くるでしょ」
「残業代少ないでしょ」
「今は無理」
俺は笑った。
「なんとかなるよ」
「俺もっと残業するし」
すると嫁も笑った。
でもその笑顔は少し寂しかった。
「残業増えたらその分ストレスだって言って買い物増えるでしょ」
「月末に余ったら買うよ」
そして小さく付け加えた。
「余らないけどね」
その言葉が妙に引っかかった。
初めて家計簿を見せてもらった。
そこで俺は凍り付いた。
家のローン。
車のローン。
保険。
積立。
貯金。
生活費。
全部計算されていた。
そしてその赤字部分を埋めていたのは、
嫁だった。
嫁の残業代。
嫁の小遣い。
嫁の我慢。
全部だった。
俺は思わず聞いた。
「じゃあ子どもは?」
すると嫁はしばらく黙った。
そして言った。
「あなたが無駄遣いを1年間やめたら子作りする」
頭を殴られた気分だった。
「え?」
「なんで?」
俺は本気で理解できなかった。
思わず聞いた。
「子ども嫌いなの?」
すると嫁は静かに首を振った。
「好き嫌いの話じゃない」
「私が産休に入ったら今の赤字は埋められない」
「子どもが生まれたらもっとお金がかかる」
「今のままじゃ無理」
俺は反論した。
「子どもできたら無駄遣いしないよ」
すると嫁は即答した。
「信じられない」
その言葉だけだった。
怒鳴りもしない。
責めもしない。
ただ、
信じられない。
その一言だった。
その瞬間、
初めて気付いた。
嫁は俺の浪費を怒っていたんじゃない。
ずっと耐えていたんだ。
服も買わず。
美容院も我慢して。
自分の小遣いまで家計に回して。
俺が自由でいられるように。
そして俺は、
そんな嫁に向かって
「もっと今を楽しめばいいのに」
なんて言っていた。
今思う。
嫁が欲しかったのは貯金じゃない。
節約でもない。
たった1年間でいいから、
俺が本当に変わる証拠だったんだと思う。
子どもより先に、
父親になる資格があるかを見ていたんだ。