新幹線の多目的室に入った瞬間、私は小さな子供の哺乳瓶を手に握っていた。
「すみません、子供にミルクをあげたいのですが、いつごろ空きますか?」
そう声をかけると、そこにいた婆が眉をひそめて声を荒げた。
「ここはそういうことをする場所じゃない!」
私の頭の中で一瞬、疑問符が渦巻いた。
(何だこの婆…)
言葉を返す気にもならず、私は子供を抱きしめ、心の中でため息をついた。
でも、赤ちゃんは待ってくれない。空腹に泣き出す小さな体を前に、どうにもできない苛立ちと焦りが胸を締め付ける。
仕方なく私は立ち上がり、車掌を探した。
事情を説明すると、車掌はすぐに対応してくれた。
「お母さん、大丈夫ですよ。多目的室は必要に応じて使える場所です。少しお待ちください」
婆の冷たい視線を感じながらも、私は深く息をつく。
やがて車掌が室内を整えてくれ、私は赤ちゃんにミルクをあげることができた。
その瞬間、胸の奥にあったモヤモヤと緊張がふっと解けた。
子供の小さな手が私の腕にしっかりと絡まり、安心した表情で眠りにつく。
あの婆の言葉はもう、遠いノイズのように感じられた。
ほんの数分でも、子供と向き合える時間がどれだけ尊いか――
私は新幹線の窓から流れる景色を見ながら、しみじみとそう思った。