葬儀が終わって三週間、私は初めて自分の通帳を開いた。 九十を超えていた母を一人で看取ったあとの、静かすぎる台所で。 そこに並んでいたのは、見覚えのない請求書の束―― 消費者金融、クレジット会社、保証会社。 合計、四百万円。 そのすべてが「相続」として、私の名前に変わっていた。 私は、その場で膝から崩れ落ちた(続)
2026/05/20

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父の葬儀が終わって三週間。
私は静まり返った台所で、初めて自分の通帳を開いた。

母を看取ってから、毎日が空っぽだった。
九十を超えた母は認知症を患っていたが、それでも食事のたびに手を合わせ、「ありがとう」と言ってくれる人だった。

私はその言葉だけを支えに、夜中の介護も、一人で続けてきた。

だが、その日。
机の上に積まれていた請求書を見た瞬間、血の気が引いた。

消費者金融、クレジット会社、保証会社。
合計四百万円。

しかも、名義はすべて私になっていた。

私はその場で膝から崩れ落ちた。

親族たちは葬儀のあと、「よく頑張ったね」と口では言った。

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だが、誰一人として借金の話はしなかった。

慌てて調べて、私は初めて知った。
相続放棄には期限があり、三か月を過ぎれば借金も引き継ぐことになるということを。

その期限は、もう二週間前に過ぎていた。

私は台所で一人、俯いた。

「もっと早く逃げればよかった……」

それは母を見捨てたかったという意味ではない。

介護という名の責任に、自分の人生まで使い潰される前に。
どこかで立ち止まるべきだったのだと、私はようやく気づいた。

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