結婚して十年。私は初めて、嫁の実家の真実を知った。
息子がカンボジア人女性と結婚したいと言った時、不安はあった。だが嫁は礼儀正しく、働き者で、家庭を大切にする人だった。
ただ、一つだけ不思議なことがあった。嫁は結婚後、一度も実家へ帰らなかったのだ。
実家の話になると、嫁はいつも曖昧に笑って話題を変えていた。
そんなある雨の夜。廊下を歩いていた私は、部屋から押し殺した泣き声を聞いた。
静かに覗くと、嫁が電話を抱き締め、震えていた。
翌朝。私はお茶を注ぎながら、不安そうに手を握る嫁へ声をかけた。
「一緒に帰りましょう」
嫁は驚いた後、小さく頷いた。
翌日、私は成田からプノンペン行きの便を予約した。
空港からさらに車で移動し、嫁の実家へ到着した瞬間、私は息を呑んだ。
雨漏りする屋根。板とシートで塞がれた壁。土の床。
私は胸が締め付けられた。
翌朝。私は銀行で手続きを済ませ、家を建て直す費用として三千万円を渡した。
すると嫁は涙を浮かべ、震える声で言った。
「お母さん、多すぎます。受け取れません」
私は嫁の手を握り返した。
「今日から、あなたの家族は私の家族よ」
東京へ戻ってから、嫁は少し明るくなった。
だが数週間後。嫁が夜遅く帰る日が続いた。
心配になった私は、ある晩そっと後を追った。
嫁が向かった先は、板橋区のおにぎり工場だった。
冷たい作業場で、赤くなった手を動かしながら、嫁は黙々と働いていた。
翌朝。嫁は頭を下げた。
「頂いたお金、少しずつでも返したいんです」
私は何も言えず、ただ嫁を抱き締めた。
その時、息子が静かに私を見て言った。
「母さん。これからは僕たち夫婦で背負っていくから」
私はその瞬間、ようやく気づいた。
この子はもう、“嫁”ではなく、本当の家族なのだと。