夫が急死した翌日、私は喪服のまま玄関で固まった。戸口に立っていたのは見知らぬ女と幼い子、そして女の手首には翡翠の腕輪。女は淡々と言った。「私、彼の恋人です。この子は彼の子。相続の話をしに来ました」。さらに、信じられない言葉を続ける――「離婚は迫りませんでした。だから私、良心的な愛人でしょ?」。私は妊娠中、義母は重病、家には借金の督促。慰めを求める暇もなく、遺産の取り分だけが切り取られていく。夫は仕事帰りに倒れ、そのまま戻らなかった(続)
2026/05/20

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夫が急死した翌日。私は喪服のまま玄関で立ち尽くしていた。

インターホンが鳴き、扉を開ける。そこに立っていたのは、見知らぬ女と幼い子どもだった。

女の手首には翡翠の腕輪。そして女は静かな声で言った。

「私、彼の恋人です。この子は彼の子です」

私は言葉を失った。

さらに女は封筒を差し出しながら続ける。

「今日は相続の話をしに来ました」

夫は仕事帰りに突然倒れ、そのまま帰らなかった。私は妊娠中で、義母は重病。

病院、役所、葬儀、借金の督促。泣く暇すらなかった。

そんな中で現れた女は、腕輪を撫でながら言う。

「彼から預かったんです。代々の形見だって」

さらに子どもの書類の写しを見せ、

「法的な権利がありますから」

と淡々と話した。

私は深呼吸し、静かに返す。

「手続きは正式に進めます。第三者を通してください」

だが女は小さく笑った。

「大げさですね。借金もあるなら、分ける方が公平でしょう?」

その“公平”という言葉に、胸の奥が冷えた。

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そして女は、信じられないことを言った。

「私、離婚を迫りませんでした。だから良心的な愛人でしょ?」

その瞬間。気づけば私は女の頬を叩いていた。

乾いた音が玄関に響く。子どもが怯えて女の後ろへ隠れた。

私は震える手を押さえながら言った。

「帰ってください」

叩きたかったのは女ではない。夫が残した嘘と、この地獄みたいな現実だった。

その後も女は連絡を寄越し、子どもの将来を理由に取り分を要求してきた。

だが私は感情で動くのをやめた。

借金の記録。夫の財産。残された書類。

私は一つずつ整理し、正式な手続きを進める準備を始めた。

相続は感情では決まらない。必要なのは、事実と記録だ。

私はもう、“良心的な愛人”という言葉に揺らがない。

私が守るのは、夫でも、女でもない。

この家に残された命と、これから生きていく明日だけだった。

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