「すみません、ここ指定席なんです!」
新幹線に乗り込み、自分の席に向かうと、そこには見知らぬ親子が座っていた。
窓側には小さな子ども、通路側には父親らしき中年男性。
私は切符を見せながら、できるだけ丁寧に声をかけた。
しかし男性は、面倒くさそうに私を見上げた。
「こっちは子供連れなんだ。少しくらい譲れないのか」
その言い方に、思わず言葉を失った。
譲ってほしいと頼むならまだ分かる。
でも、まるで私が悪いかのように睨まれる理由はない。
「でも、私もこの席を予約しているので……」
そう言っても、男性は動こうとしなかった。
周囲の乗客も気まずそうに視線をそらし、車内の空気だけが重くなっていく。
その時だった。
後ろから低い声が聞こえた。
「お嬢ちゃん、俺の席と交換してあげるよ」
振り返ると、そこには黒い服を着た強面の男性が立っていた。
腕には派手な模様が少し見え、正直、近づくのも少し怖い雰囲気だった。
男性は私に向かって穏やかに笑うと、今度は座席を占領している父親を見下ろした。
「で、あんたは俺の隣に座るか?」
その一言で、父親の顔色が一気に変わった。
「い、いや……すぐ退きます」
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか。
父親は慌てて荷物をまとめ、子どもを連れて別の車両へ逃げるように去っていった。
私はようやく自分の席に座ることができた。
強面の男性は何事もなかったように言った。
「指定席は、ちゃんと買った人のもんだよ」
その言葉に、私は深く頭を下げた。
少し怖かったけれど、あの時ほど頼もしい人はいなかった。