「息子が車を買ったんですけど、予定していた駐車場が急に借りられなくなってしまって……」
休日の朝、インターホン越しにそう言ってきたのは、隣に住む奥さんだった。
玄関を開けると、彼女は困った顔をしながらも、どこか当然のような口調で続けた。
「納車できないなんて可哀想でしょう? お宅の駐車場、しばらく置かせてもらえません?」
うちの駐車場は、私が仕事で使う車を停めるために契約している場所だった。
空いて見える時間があるだけで、貸せるわけではない。
私ははっきり答えた。
「申し訳ありませんが、無理です」
すると隣の奥さんは、不満そうに眉をひそめた。
「少しくらいいいじゃない。ご近所なんだから」
そう言われても、万が一の傷や事故、契約違反になった場合の責任を取るのは私だ。
私はもう一度、丁寧に断った。
それで終わったと思っていた。
ところが翌日の昼過ぎ、家の前に車屋さんのトラックが止まった。
作業員らしき男性が降りてきて、私の駐車場を確認している。
嫌な予感がして外に出ると、男性は書類を見ながら言った。
「こちらに納車するよう伺っています」
私は驚いて聞き返した。
「誰がそんなことを?」
そこへ隣の奥さんが慌てて出てきた。
「ちょっとだけよ! 先に置いてしまえば分かってくれると思って」
その言葉で、完全に堪忍袋の緒が切れた。
私はその場で車屋さんに事情を説明し、使用許可など一切出していないことを伝えた。
さらに管理会社にも電話し、無断駐車をしようとしている件を報告した。
車屋さんはすぐに納車を中止し、隣の奥さんに冷静な声で告げた。
「契約者の許可がない場所には置けません。トラブルになりますので」
奥さんは真っ赤な顔で黙り込んだ。
その後、息子さん本人が謝罪に来たが、私は最後まで駐車場を貸さなかった。
可哀想なのは、ルールを守れない親を持った息子の方だと思った。