「大学の費用を出してください」
久しぶりに元嫁から届いた連絡は、あまりにも身勝手なものだった。
俺は画面を見つめたまま、思わずため息をついた。
「大学費用なら、離婚の時に一括で払っただろ」
息子が将来困らないように、学費としてまとまった金を渡していた。
養育費とは別に、手をつけるなと約束した金だった。
しかし元嫁は、悪びれもせずに言った。
「なくなったの」
その一言で、頭の奥が冷たくなった。
後日、息子も同席して話し合うことになった。
久しぶりに会った息子は、俺を見るなり険しい顔をした。
俺はできるだけ落ち着いて尋ねた。
「お前はどうしたい?」
すると息子は、握りしめた拳を震わせながら叫んだ。
「僕と母さんを捨てたくせに、偉そうにするな!」
その言葉に、胸が鈍く痛んだ。
どうやら元嫁は、俺が家族を捨てたと息子に言い続けていたらしい。
俺は元嫁を見た。
彼女は目を逸らした。
もう黙っている理由はなかった。
「離婚の原因は、お前の母さんだ」
息子の表情が固まった。
「……え?」
俺は当時のことを、できる限り冷静に話した。
元嫁が別の男と関係を持ったこと。
その相手との生活を選び、俺に離婚を迫ったこと。
そして息子のために、俺が学費と養育費を渡し続けてきたこと。
息子は何度も母親の顔を見た。
元嫁は最後まで反論できなかった。
「じゃあ、大学費用は……」
「お前の母さんが使った」
部屋の空気が重く沈んだ。
息子はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で言った。
「何も知らなかった……」
俺は息子を責める気にはなれなかった。
憎むべきなのは、真実を隠し、子どもの未来の金まで使い込んだ大人だ。
その日、俺は条件付きで息子の学費を直接大学へ支払うことにした。
ただし、元嫁には一円も渡さない。
息子は涙をこらえながら、初めて俺に頭を下げた。