回転寿司屋に一人で入ったのは、仕事帰りのことだった。
小腹が空いていただけなので、私はきつねうどんと安めの皿を七枚ほど取り、のんびり食べていた。
隣には、五十代くらいのおっさんが座っていた。
その人は入店してすぐ、大トロ、ウニ、イクラ、炙り系の高い皿ばかりを次々と取っていた。
「すごい食べるなあ」
そう思いながらも、別に自分には関係ないと気にしなかった。
ところが会計の時、店員が私の席番号を確認して言った。
「お会計、八千円になります」
私は思わず声が裏返った。
「え!? きつねうどんで? 七皿で!?」
店員も驚いた顔で伝票を見直したが、機械上では確かに八千円になっているらしい。
その瞬間、さっきまで隣にいたおっさんの姿がないことに気づいた。
嫌な予感がしてレーン側を見ると、私の席の皿回収口に、高い皿の履歴が大量に残っていた。
どうやらおっさんは、自分の皿をこっそり私の席側へ流していたのだ。
私はすぐに店員へ事情を説明した。
すると奥から店長が出てきて、防犯カメラを確認してくれた。
数分後、店長の表情が変わった。
「お客様のおっしゃる通りです。隣の方が皿を移していました」
幸い、おっさんはまだ店の外の喫煙所にいた。
店長が声をかけると、おっさんは最初しらばっくれたが、映像があると聞いた途端に顔色を変えた。
「ちょっとした冗談だろ」
その言葉に、店長は冷静に返した。
「無銭飲食に近い行為です。警察を呼びますか」
結局、おっさんは自分の分を全額支払い、私に頭を下げることになった。
私は本来の会計だけを済ませて店を出た。
きつねうどんと七皿で八千円。
一瞬、人生で一番高い寿司になりかけた。