俺は、嫁の財産目当てで結婚した。初めて写真を見た時は、「誰がこんなデブスと結婚するか」と本気で思った。だが、嫁の実家が資産家だと知った瞬間、考えは変わった。愛しているふりをして近づき、何とか結婚まで持ち込んだのだ。
婚約中、俺は毎週のように嫁をデートへ連れ出した。手を握り、優しい言葉を囁き、恋人らしく振る舞った。本音では苦痛だったが、「全部財産のためだ」と自分に言い聞かせていた。結婚後は金だけもらって、女遊びも酒も好き放題するつもりだった。
ところが、一緒に暮らし始めてから、俺は少しずつおかしくなった。仕事が終わると真っ直ぐ家へ帰りたくなる。飲みの誘いも断るようになった。嫁と一緒に夕飯を食べ、他愛ない話をして笑う時間が、何より落ち着くのだ。
嫁は俺の給料を管理していたが、小遣いとしてほとんど返してくれる。嫁自身が親の会社の役員で、俺よりずっと稼いでいるからだ。それでも嫁は毎朝早起きして、俺の弁当を作り、靴まで磨いてくれた。
ある雨の日、俺は傘を忘れて駅で立ち尽くしていた。すると改札の外で、嫁が小さく肩を縮めながら待っていた。「風邪ひいたら大変だから」そう言って笑う嫁を見た瞬間、胸が苦しくなった。
スーパーで買い物中、はぐれたこともある。人混みの中で不安そうに周囲を見回していた嫁は、俺を見つけた途端、ぱっと顔を明るくして駆け寄ってきた。そして、「見失っちゃってごめんね」と恥ずかしそうに腕を組んできた。責める言葉は一つもなかった。
その時、俺は気づいた。俺はもう、嫁を愛していた。
今では容姿なんてどうでもいい。財産よりも、嫁が笑って隣にいてくれることの方がずっと大切だ。家へ帰れば嫁がいる。それだけで幸せだと思える。
俺は二十四歳までずっと一人だった。昔はモテないからだと思っていた。でも今は違う。
運命の人に出会うまで、待っていただけだったのだ。
ある夜、嫁が照れくさそうに笑いながら言った。「運命の人のために、ちゃんと守ってたんだよ」
その言葉を聞いた時、俺は心の底から思った。財産目当てで始まった結婚だった。それなのに俺は、人生で一番大切なものを手に入れていたのだ。