
娘が戻ってきた瞬間、違和感があった。
手ぶらだった。
「どうしたの?」
そう聞くと、少し迷いながら言った。
「お金だけ取られて、何ももらってない…」
最初は聞き間違いかと思った。
でも、もう一度同じことを言う。
「お釣りも、レシートも、もらってない」
その声が小さくて、自信がなさそうで——
ああ、この子、信じてもらえなかったんだ。
その瞬間、ただ事じゃないと分かった。
すぐに店に戻った。
レジにいた店員に事情を説明する。
でも返ってきたのは、あまりにも軽い一言だった。
「渡してますよ」
そして続けて、
「受け取ってないなら、そっちの問題ですよね」
……は?
あまりにも当然みたいに言われて、一瞬言葉が出なかった。
その横で、娘が小さな声で言う。
「ちゃんとお金、出したよ…」
でも、店員はこっちを見ようともしない。
完全に“話は終わり”という態度だった。
その時だった。
娘が、涙をこぼした。
「うそじゃない…!」
その一言で、頭の中が切り替わった。
――ああ、もういい。
私は一歩前に出て、落ち着いた声で言った。
「店長を呼んでください。防犯カメラ確認します」
その瞬間、空気が変わった。
さっきまで面倒そうだった店員の表情が崩れる。
「いえ、その…確認しますので…」
明らかに動揺していた。
でも止めなかった。
「店長を呼んでください。カメラで確認します」
もう一度だけ、はっきり言った。
数十秒後、店長が出てきた。
事情を説明すると、すぐに対応が変わった。
防犯カメラの確認。
結果はすぐだった。
お金は受け取っている。
でも、商品もお釣りも渡していない。
完全に店側のミスだった。
店長と店員は揃って頭を下げた。
「大変申し訳ありませんでした」
「返金と商品、それとお詫びを——」
そこまで聞いて、私は止めた。
「いいです」
自分でも驚くくらい、冷静な声だった。
娘の手を握りながら言った。
「それで、この子の気持ちは戻りますか?」
一瞬で、空気が止まる。
誰も何も言えなかった。
私は店員を見て続けた。
「嘘つきみたいに扱われて、怖い思いして」
「それ、なかったことにできますか?」
店員は俯いたまま、動かなかった。
私は最後に一言だけ言った。
「子どもを軽く見ないでください」
そのまま店を出た。
外に出ると、娘はまだ少し涙を残していた。
でも、小さく言った。
「言ってくれてありがとう」
その一言で、胸の奥が少し軽くなった。
正直、悔しさは消えない。
でも——
あのまま終わっていたら、
もっと後悔していたと思う。
あの時、止めてよかった。