祖母は生前、本当に質素な人だった。
服は何十年も同じものを大切に着て、外食もほとんどせず、「もったいない」が口癖だった。
だから私たち家族は、祖母にそんな大きな財産があるなんて、一度も思ったことがなかった。
四十九日が終わり、親戚みんなで遺品整理を始めた。
古いタンスを開けると、最初は着物が何枚か出てきた。
その下に、小さな木箱が並んでいた。
開けた瞬間、全員が息をのんだ。
巨大なダイヤの指輪。
純金のネックレス。
鑑定書付きの宝石。
価値の分からない骨董品まで次々と出てくる。
「え……これ全部、おばあちゃんの?」
試しに査定してもらうと、一点だけで百万円を超える品まであった。
部屋の空気が一気に変わった。
さっきまで静かだった親戚たちが急に騒ぎ始めた。
「これは長男が管理すべきだ。」
「いや、みんなで分けるべきだ。」
「私は娘なんだから権利がある。」
祖母が亡くなったばかりなのに、まるで品物の奪い合いだった。
その時だった。
タンスの一番奥から、一通の封筒が見つかった。
そこには祖母の字で、
「遺言書」
と書かれていた。
全員が固唾をのんで見守る中、封を開ける。
そこには、こう書かれていた。
「すべての財産は、次男夫婦とその孫へ譲ります。」
そして続けて、
「長男、長女、次女、三男、そのほかの親族には一切譲りません。」
部屋が凍りついた。
「なんで?」
「こんなの納得できない!」
怒鳴り声が飛び交う。
しかし遺言には、その理由まで残されていた。
「私が介護を必要とした時、最後までそばにいてくれたのは次男夫婦だけでした。ほかの者は誰一人来ませんでした。」
祖母は全部見ていたのだ。
顔を出した人。
見て見ぬふりをした人。
口だけだった人。
すべて覚えていた。
それ以来、親戚関係は完全に壊れた。
「遺言は無効だ。」
「騙された。」
「書き直させたんだろ。」
そんな言葉も飛び交った。
それでも、法的に有効な遺言だったため、覆ることはなかった。
祖母は、生きている間は何も言わなかった。
けれど最後に残した一枚の紙で、
誰が本当に家族だったのか。
その答えだけは、誰にも覆せなかった。