娘に“貸せよ”と言われた瞬間、封印していた過去が戻った――元女番長の私が一歩も引かなかった理由
2026/04/29

広告

元女番長だった、なんて今では誰も知らない。

結婚して、子どもができて、

普通の生活をしている。

それでいいと思ってた。

過去なんて、もう関係ない。

そう思っていた。

その日も、ただの休日だった。

娘のエリカとショッピングモールに来ていた。

手をつないで、他愛もない話をしながら歩いていた。

それだけだった。

その時だった。

男がぶつかってきた。

わざとだった。

避けられる距離なのに、まっすぐ突っ込んできた。

エリカの体がよろける。

思わず手を引いた。

「大丈夫?」

そう声をかけた瞬間、男が笑った。

「ババアに用ねぇよ」

空気が一瞬で変わった。

「その娘、貸せよ」

意味が理解できた瞬間、背中が冷えた。

怒りより先に、危機感が来た。

これは冗談じゃない。

完全にアウトだ。

エリカが私の後ろに隠れた。

小さく震えている。

それを感じた瞬間、スイッチが入った。

昔の感覚が戻る。

距離、視線、動き。

全部、一瞬で計算される。

「やめて」

低く言った。

男は笑ったまま近づいてくる。

広告

「何?やんの?」

その一歩を見た瞬間、体が勝手に動いた。

手首を取って、重心を崩す。

力じゃない。

タイミング。

一瞬でバランスを崩した男が、地面に落ちる。

周りがざわつく。

でも止まらなかった。

起き上がろうとした動きを抑える。

視線を外さない。

「それ以上やるなら、本気で止める」

声は冷静だった。

昔と同じ。

男の表情が変わった。

初めて“危ない”と気づいた顔だった。

でも、まだ完全には引いていない。

その時だった。

「何してる!」

後ろから声が飛んだ。

振り返るまでもなく分かった。

旦那だ。

警察官として働いている。

エリカが連絡していたらしい。

男は一瞬で態度を変えた。

でも遅い。

すぐに取り押さえられた。

騒ぎは一気に収まった。

私はその場に立ったまま、息を吐いた。

エリカがそっと手を握ってきた。

「お母さん……」

不安と驚きが混ざった声だった。

私はゆっくりしゃがんで、目を合わせた。

「大丈夫だよ」

それだけ言った。

帰り道、エリカが聞いてきた。

広告

「どうしてそんなに強いの?」

少しだけ迷った。

でも、隠す必要はないと思った。

「昔ね、ちょっとだけ強かったの」

笑ってごまかした。

でも、本当は違う。

強かったんじゃない。

守るしかなかっただけだ。

そして今も同じだ。

守るものがあるから、強くなる。

それだけだった。

私はエリカの手を握り直した。

もう二度と、あんな思いはさせない。

そう、静かに決めた。

広告

AD
記事