あの日の飲み会は、最初から少しおかしかった。
歓迎会。
断れない空気。
でも私は、最初にちゃんと言っていた。
「お酒、ほんとに弱くて…無理なんです」
何度も言った。
はっきり言った。
それでも、笑われた。
「一杯くらい大丈夫でしょ」
「空気読もうよ」
そのままグラスを持たれた。
断ろうとした。
でも、押し切られた。
口元まで持ってこられて——
一気に流し込まれた。
喉が焼けるみたいだった。
そのあと、よく覚えていない。
気づいたら、トイレにいた。
立てなくて、
そのまま意識が遠のいた。
次に目を開けた時、
知らない天井だった。
病院だった。
点滴の感覚と、
体のだるさだけが残っていた。
周りに人の気配があった。
会社の人と、誰か。
そして、その声が聞こえた。
低くて、抑えた声。
「誰が飲ませた?」
一瞬で、空気が変わった。
あの場にいた人たちが、
一斉に黙った。
私はその声の主を知っていた。
彼氏だった。
普段は穏やかな人。
でも、その時は違った。
完全に怒っていた。
「無理って言ってたよな?」
静かに確認する声。
誰も答えない。
でも、逃げられなかった。
上司が小さく言った。
「……俺です」
その瞬間だった。
彼氏の視線が、まっすぐ向いた。
「部下だからって、何していいか分かってる?」
一言だった。
でも、重かった。
言い訳しようとしていた上司の口が止まった。
その場にいた全員が分かっていた。
これはもう、“飲み会のノリ”じゃない。
完全にアウトだって。
その日は、それ以上何も起きなかった。
でも終わりじゃなかった。
数日後。
彼氏が会社に来た。
そして、そのまま話し合いになった。
社長も出てきた。
状況説明。
診断書。
証言。
全部揃っていた。
逃げ場はなかった。
結果はすぐ出た。
上司は自主退職。
応じなければ、会社としても対応する。
そう言われていたらしい。
結局、その人は会社からいなくなった。
噂で聞いた。
今はもう、別の仕事をしてるらしい。
あの日、あの一杯で。
私の体も、怖さも、全部変わった。
でも同時に、はっきりした。
「ノリ」じゃ済まないことはある。
そしてもう一つ。
ちゃんと怒ってくれる人がいるだけで、
守られることもあるってこと。
あの時、もし何も言われなかったら。
きっと“よくある話”で終わっていた。
これって、
飲み会の問題なのか、
それとも最初から分かってた“人の問題”なのか。