
病院を出た瞬間、足元が少しふらついた。
外の空気がやけに冷たくて、さっき聞いた言葉が現実なんだと突きつけられる。
「心拍が確認できません」
頭の中で、何度も繰り返される。
さっきまで確かにそこにあったはずの命が、急に“ない”ものとして扱われた感覚。
うまく呼吸ができなかった。
帰り道、無意識にお腹に手を当てていた。
「本当に終わりなの?」
答えはないのに、何度も聞いてしまう。
家に着いても、現実感がなかった。
ただ時間だけが過ぎていく。
夜になっても眠れない。
目を閉じると、診察室の光景がそのまま浮かんでくる。
あの無機質な部屋。
モニターの画面。
医師の淡々とした声。
何度も涙が出て、そのたびに自分でもどうしようもなかった。
それでも——
心のどこかで、ほんの少しだけ思っていた。
「もしかしたら」
理由はない。
ただ、そうであってほしいと願っていただけ。
そのまま1週間が過ぎた。
長かった。
本当に長かった。
そして、再び診察の日。
正直、怖かった。
でも行かないわけにはいかなかった。
診察台に横になって、モニターがつけられる。
画面を見る勇気がなくて、少し目を逸らした。
静かな時間が流れる。
ほんの数秒のはずなのに、すごく長く感じた。
その時だった。
「あれ?」
医師の声が、少しだけ変わった。
次の瞬間、
「心拍、確認できますね」
一瞬、意味が分からなかった。
え?
今、なんて言った?
「大丈夫ですよ。ちゃんと動いてます」
その言葉を聞いた瞬間、
全身の力が抜けた。
気づいたら、涙が止まらなかった。
声も出せないまま、ただ泣いていた。
あの1週間、
何度も終わりだと思った。
でも、完全には諦めきれなかった。
あの時、すぐに決断しなくてよかったと、初めて思えた。
もちろん、その後も順調だったわけじゃない。
何度も不安になることはあったし、体調も安定しなかった。
それでも、そのたびに思い出していた。
あの診察室で聞いた言葉を。
そして——
無事に、元気な女の子が生まれてきてくれた。
あの時、もう終わりだと思っていた命が、
今はこうして、隣で笑っている。
あの瞬間のことは、今でも忘れられない。
たった1週間。
でも、あの1週間が、
すべてを変えた。