
翌朝、私は迷わず会社の経理部に向かった。
息子・僚太の給与から養育費を天引きして、そのまま元嫁・彩佳の口座へ振り込む仕組みにしていたからだ。
履歴を開いて確認する。
毎月20万円、きちんと振り込まれている。
ここまでは問題ない。
でも——
口座番号が違う。
一瞬、見間違いかと思った。
もう一度確認する。
やっぱり違う。
「この口座、本当に彩佳さんのもの?」
そう聞いた瞬間、担当の里奈が戸惑った顔をした。
「え…課長から、元奥様の希望で変更したと…」
課長。
つまり、僚太。
その一言で、すべてが繋がった。
嫌な予感が、確信に変わる。
すぐに彩佳へ連絡した。
「口座、変更した?」
返ってきたのは、即答だった。
「してない」
——終わった。
さらに調べると、その口座は僚太自身が管理しているものだった。
つまり——
養育費は一度も彩佳の元には届いていない。
毎月20万円。
自分の子どものためのお金を、
そのまま自分で受け取っていた。
正直、言葉が出なかった。
でも、ここで止まるわけにはいかなかった。
私はその場で口座を停止した。
そして、その日から動き始めた。
二週間。
その間、僚太の行動を確認した。
夜の店。
消費者金融。
見知らぬ女性との出入り。
全部、記録した。
そして二週間後。
経理部の廊下で、僚太が怒鳴り込んできた。
「なんで口座止めたんだよ!」
顔は真っ赤、完全に逆ギレだった。
でも私は一切動じなかった。
「もう必要ないからよ」
「は?」
その一言で、空気が止まる。
私は静かに続けた。
「彩佳さんから聞いたわ。2,000円しか届いてないってね」
その瞬間、
僚太の顔色が一気に変わった。
何か言おうとして、言葉が出てこない。
そこに、追い打ちをかける。
私は机の上に写真を並べた。
キャバクラ。
消費者金融。
ホテルの出入り。
「全部、見てたわよ」
低い声で言った。
さっきまでの勢いは、完全に消えていた。
そして最後に一言。
「会社の経費も使ってたわよね」
完全に詰みだった。
「あなた、今日でクビよ」
解雇通知を目の前に置いた。
「待ってくれ…やり直すから…!」
さっきとは別人のような声だった。
でも——
「遅いわ」
一歩も引かなかった。
結局、僚太はすべてを失った。
仕事も、信用も。
その後、私たちはある決断をした。
このままでは、また同じことを繰り返す。
だから——
遠洋の船に乗せた。
逃げ場のない環境で、
働いて返すしかない場所に。
今、僚太は海の上で働いている。
養育費は、毎月きちんと振り込まれている。
一方で、彩佳と孫たちは、ようやく落ち着いた生活を取り戻した。
あの日の電話がなければ、
この事実はずっと隠されたままだったと思う。
ただ一つだけ、はっきりしている。
見て見ぬふりをしなかったことだけは、
間違っていなかった。