「警察です。息子の二郎さんに逮捕状が出ています」
玄関の外からそう告げられ、私は手を震わせた。だが足元で「ニャー」と声がして、視線を落とす。そこには愛猫の二郎がいた。
私は六十七歳。三年前に夫を亡くし、大きな家で二郎と暮らしている。息子は健太と翔太。長男の健太は三年前、優奈という若い女性と結婚した。礼儀正しいが口数が少なく、いつも緊張したような嫁だった。
ある昼、珍しく優奈が一人で訪ねてきた。野菜を渡され、お茶を出した時、固定電話が鳴った。受話器の向こうで男が言う。
「警察です。鈴木二郎さんが事故を起こしました。示談金は五百万円です」
頭が真っ白になった。だがすぐ違和感に気づく。二郎は猫だ。
その時、優奈が私の手を押さえた。
「お母さん、詐欺です。演技してください。
本物の警察を呼びます」
私は震えながらうなずいた。
一時間後、インターホンが鳴る。
「警察です」
ドアを開けると、スーツ姿の男二人が立っていた。書類には確かに「鈴木二郎」とある。私は二郎を抱き上げ、しみじみ言った。
「二郎……どうして事故なんて……」
男たちが笑った瞬間、私は二郎の前足を持ち上げた。
「こちらが私の息子の二郎です」
二人が固まり、二郎が「ニャー」と鳴く。男が怒鳴った瞬間、奥の部屋から本物の警察官が飛び出した。
「動くな!」
優奈が通報していたのだ。外にも警官がおり、二人はその場で逮捕された。
さらに驚いたのは、犯人の一人が友人・幸子の息子だったことだ。翌日、幸子が怒鳴り込んできた。
「あんたのせいで息子が捕まった!」
すると優奈がスマホを見せる。
「今の発言、録音しました」
幸子は顔色を変えて帰っていった。
後で私は優奈に聞いた。
「どうしてあんなに冷静だったの?」
優奈は小さく笑った。
「母子家庭で変な電話が多くて、自分で対処するしかなかったんです。お母さんを守りたかったんです」
私は思わず抱きしめた。
それから五年。今の家は孫たちの笑い声でいっぱいだ。冷蔵庫の上には二郎が座っている。
「二郎、あんたは本当にすごい子ね」
そう言うと、二郎は誇らしげに「ニャー」と鳴いた。