あの瞬間、全部分かった。
この会社に、俺の居場所はないって。
新人歓迎会の会場に入った時だった。
テーブルには予約札が並んでる。
でも——俺の席だけ、ない。
最初は見間違いかと思った。
でも何度見てもない。
名札も、箸も、グラスも、何もない。
空席はあるのに、俺の分だけ用意されてない。
その時点で理解した。
これはミスじゃない。
最初から外されてる。
周りの同僚も気づいてた。
でも誰も何も言わない。
目を逸らすだけ。
その空気が一番きつかった。
そして追い打ちみたいに、部長が言った。
「現場上がり?まあ悪くないけどさ、やっぱ会社は学歴だからな」
わざと聞こえる声で。
周りは苦笑い。
正直、その瞬間で完全に冷めた。
ああ、終わってるなって。
だから俺は静かに言った。
「不採用だったみたいなので、帰ります」
一瞬、空気が止まった。
でも部長は笑った。
「は?席がないくらいで帰るのかよ。子どもだな」
違う。
拗ねてるんじゃない。
判断しただけ。
歓迎会でこの扱いなら、
この先も同じ。
だったら、ここにいる意味はない。
そのまま店を出た。
外の空気が冷たくて、逆に頭が冷えた。
悔しいというより、むしろスッキリしてた。
「やっと決められたな」って感じだった。
その日のうちに、退職の準備をした。
で、翌日。
出社した瞬間、空気がおかしかった。
社内がざわついてる。
見慣れないスーツの人たち。
話を聞いてすぐ分かった。
取引先の監査が来てた。
しかも内容が——
「現場運用と人材評価の確認」
その時点で嫌な予感しかしなかった。
すぐに部長が呼ばれた。
会議室の中から声が聞こえた。
「歓迎会で席がない社員がいる?どういうことだ?」
完全に空気が変わった。
さらに追い打ち。
「その社員、現場改善の提案書書いた人だよな?」
部長の顔、真っ青。
どうやら昨日のこと、外に漏れてたらしい。
しかも最悪な相手に。
そのあと、社長に呼ばれた。
「申し訳なかった。配置を見直したい」
はっきり言ってきた。
「現場改善チームに入ってほしい。取引先との窓口も任せたい」
つまり——
立場が一気に逆転した。
昨日まで無視されてた俺が、
必要な人材になってた。
俺はその場で答えなかった。
ただ一言だけ言った。
「昨日、判断は終わってます」
会社じゃない。
人を見る。
そこは変わらない。
あの時の空席。
あれが全部だった。