「なんで男が座ってるの?」産婦人科で怒鳴った妊婦が、数秒後に言葉を失った理由
2026/05/26

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その日、
私は妊婦健診で産婦人科に来ていた。

平日の午前中だったけど、
待合室はかなり混んでいた。

お腹の大きい妊婦さん。
付き添いの夫婦。
泣きそうな小さな子ども。

独特の静かな空気が流れていた。

そんな中、
ひとりだけ異様に顔色の悪い男性がいた。

三十代くらい。

青白い顔で、
待合室の端の椅子に座っていた。

猫背で、
ずっと紙を握りしめている。

しかも周囲には、

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立っている妊婦さんが何人もいた。

だからなのか。

突然、
近くにいた妊婦さんが声を荒げた。

「ちょっと、なんで男の人が座ってるんですか?」

待合室が一瞬静かになる。

女性はイライラした様子で続けた。

「見れば分かりますよね?
立ってる妊婦さんいるんですよ?」

男性は顔を上げた。

でも、
何も言わなかった。

ただ、
握っていた紙が少し震えていた。

女性はさらにヒートアップした。

「普通、自分から譲りません?
ここ産婦人科ですよ?」

すると周囲も、
なんとなく女性側の空気になった。

確かに、

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言ってること自体は間違ってない。

妊婦さん優先。

それは普通の感覚だと思う。

でも。

私はその男性の様子が、
どうしても気になった。

汗の量がおかしかった。

今にも倒れそうな顔をしていた。

それでも男性は、
一言も反論しない。

すると女性は、
軽く男性の頭を叩いた。

「ちゃんと考えてくださいよ!」

その瞬間だった。

奥の処置室から、
看護師さんが飛び出してきた。

「やめてください!!」

待合室が凍った。

看護師さんは、
かなり強い口調だった。

そして男性の前に立つと、


女性へ向かって言った。

「その方は今、
奥様の緊急手術の同意書を書かれるご家族です」

空気が変わった。

「奥様も赤ちゃんも危険な状態なんです。
先ほどから気分も悪く、
倒れそうだったのでこちらで座っていただいてます」

女性の顔色が一気に変わった。

さっきまで強かった声が、
完全に消えた。

周囲の視線も、
今度は女性に集まり始めた。

男性はゆっくり立ち上がった。

そして小さく頭を下げた。

「……すみません」

いや、
謝るのおかしいだろ。

多分、

待合室にいた全員がそう思った。

でも男性は、
誰も責めなかった。

怒鳴り返しもしなかった。

ただ、
かすれた声でこう言った。

「妻と子どもが無事なら…
それだけでいいです」

その言葉を聞いた瞬間、
私は胸が苦しくなった。

女性は何か言おうとしていた。

でも、
結局何も言えなかった。

ただ、
立ち尽くしていた。

その後、
男性は看護師さんに支えられながら奥へ入っていった。

待合室には、
なんとも言えない空気だけが残った。

私はあの日、
すごく怖いものを見た気がした。

悪意じゃない。

むしろ、
“正しいことをしている”
という感覚。

それが一番、
人を攻撃的にしてしまう時がある。

もちろん、
妊婦さんを優先するのは大事だと思う。

でも。

事情を知らないまま、
誰かを“悪”だと決めつける怖さを、

私は忘れられない。

あの男性の震える手と、
最後の一言が、
今でも頭から離れない。

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