その日、私はスーパーで少し高めのチャーシューを買った。
週末に家族で食べる予定だったので、奮発して購入したものだ。
買い物の途中、荷物が多かった私は一度車へ戻り、チャーシューの入った袋を後部座席へ置いた。
その後、別の店で用事を済ませて戻ってくる。
ところが車を開けた瞬間、違和感を覚えた。
袋がない。
何度見てもない。
嫌な予感がした。
近くの防犯カメラを確認すると、一人のおばさんが私の車の周辺をうろうろしている。
そして周囲を確認した後、何食わぬ顔で袋を持ち去っていた。
私はすぐに警察へ相談した。
映像もある。
犯人の顔も映っている。
これならすぐ見つかると思った。
しかし返ってきた言葉は予想外だった。
「被害額が少額ですので……」
「記録は残しますが……」
正直、腹が立った。
金額の問題なのだろうか。
盗みは盗みだ。
そこで私は思い出したように言った。
「あ、そういえば。」
警察官が顔を上げる。
私は真顔で続けた。
「そのチャーシュー、犬の薬を塗った直後だったんです。
」
「食用ではなかったので、もし食べたら体調を崩すかもしれません。」
すると警察官の表情が変わった。
「え?」
「それは本当ですか?」
「もし口にしたら危険なんですね?」
私は頷いた。
すると急に空気が変わった。
「特徴は?」
「映像はありますか?」
「どちらへ向かいましたか?」
さっきまで消極的だった警察官たちが慌ただしく動き始めた。
それから約30分後。
警察は防犯カメラの映像からおばさんを特定した。
おばさんの自宅を訪ねた警察官は事情を説明した。
すると、おばさんはみるみる顔色を失ったという。
「えっ!?」
「犬の薬!?」
「もう食べちゃったかもしれない!」
慌てて家の中を確認し始めたらしい。
さらに、
「いや、その……」
「拾っただけで……」
「もらったと思って……」
などと言い訳を始めた。
しかし袋の中身を知っている時点で、盗んだことは明らかだった。
警察官が確認すると、おばさんはとうとう認めた。
「すみません……」
「出来心だったんです……」
その後、おばさんは震えながらチャーシューを返却した。
最初は強気だった態度も消え失せていた。
後日、対応してくれた警察官が私に尋ねた。
「ところで、本当に犬の薬を塗っていたんですか?」
私は少し笑った。
「いえ。」
「普通のチャーシューです。」
警察官は一瞬固まった後、苦笑いした。
私は肩をすくめた。
だって仕方がない。
盗んだ本人が慌てるくらい心配するなら、最初から人の物に手を出さなければよかっただけなのだから。
そして私は改めて思った。
人は、自分が被害者になるかもしれないと思った瞬間にだけ、急に真面目になるものらしい。