私がその部署に異動して三年が経った。
気付けば誰もやりたがらない仕事は、いつも私のところに回ってくるようになっていた。
コピー機の紙がなくなれば補充する。
会議資料を印刷する。
新人のフォローをする。
報告書をまとめる。
締切前には残業して数字を確認する。
誰かがミスをすれば最後に修正する。
目立たない仕事ばかりだった。
でも誰かがやらなければ回らない。
だから私は黙ってやっていた。
そんな中、部署で昇進枠が一つだけ空いた。
周囲からは、
「今回は絶対〇〇さんだよね。」
そう言われていた。
私自身も少し期待していた。
実績だけなら負けていないと思っていたからだ。
ところが発表の日。
名前を呼ばれたのは男性社員のAだった。
会議室が静まり返った。
正直、驚いた。
Aは決して無能ではない。
ただ、現場の仕事をほとんどしていなかった。
面倒な作業は後輩任せ。
残業もしない。
数字の集計も他人任せ。
その代わり上司への報告だけは欠かさなかった。
私は発表後、上司に呼ばれた。
「君も候補だったよ。」
そう言われた。
私は聞いた。
「では、なぜ私は選ばれなかったんですか?」
上司は少し考えてから言った。
「君は本当に頑張ってる。」
「部署に必要な人材だ。」
その言葉を聞いても嬉しくなかった。
私はもう一度聞いた。
「理由を教えてください。」
すると上司は何気ない口調で言った。
「やっぱり男の方がプレッシャーに強いからね。」
私は思わず聞き返した。
「それは実績の話ですか?」
上司は笑った。
「いや、そういうわけじゃないけど。」
「管理職は大変だからさ。」
その瞬間、何かが切れた。
私は三年間を思い出していた。
残業した夜。
休日対応した案件。
誰もやりたがらない雑務。
全部会社のためだと思っていた。
評価されると思っていた。
でも違った。
私は評価対象ではなく、
便利な人として扱われていただけだった。
その日から私は変えた。
頼まれた雑務は断るようになった。
会議室の準備もしない。
コピー用紙も補充しない。
自分の業務だけに集中した。
すると部署は少しずつ回らなくなった。
今まで私が無言で埋めていた穴が見え始めたのだ。
数か月後。
上司に呼ばれた。
「最近協力的じゃないね。」
私は静かに答えた。
「私の仕事ではないので。」
上司は何も言えなかった。
私はようやく気付いた。
頑張れば報われるのではない。
声を上げなければ、都合よく使われ続けるだけなのだと。
昇進できなかったことよりも悔しかったのは、
能力ではなく性別で評価されたことだった。
そして私はその日、
この会社に自分の未来はないと確信した。