「大学の学費を出してください。」
離婚して十年以上。
ある日突然、元嫁からそんなメッセージが届いた。
俺は画面を見つめたまま固まった。
学費?
何を言っているんだ。
息子が困らないようにと、離婚の時に大学資金は一括で渡してある。
養育費とは別に、
「これは息子の大学費用だから絶対に使わないで。」
そう何度も念を押して預けた金だった。
俺は返信した。
「大学費用なら、もう渡してあるだろ。」
すると返ってきたのは、たった一言。
「なくなったの。」
頭の中が真っ白になった。
「なくなった」じゃない。
それは息子の将来のお金だ。
数日後、三人で話し合うことになった。
久しぶりに会った息子は、俺の顔を見るなり睨みつけた。
「今さら父親面しないで。」
俺は驚いた。
「どういう意味だ?」
息子は怒鳴った。
「母さんから全部聞いてる!父さんは僕たちを捨てて女を作って出ていったんだろ!」
その瞬間、ようやく全部つながった。
元嫁は十年以上、
俺を悪者にして育ててきたのだ。
俺は深く息を吸った。
「今日は全部話す。」
部屋が静まり返る。
「離婚を言い出したのは俺じゃない。」
「浮気したのも俺じゃない。」
「お前の母さんが別の男と暮らしたいと言って家を出た。」
息子の顔色が変わった。
「……嘘だ。」
「嘘じゃない。」
俺は離婚協議書のコピーを取り出した。
慰謝料。
財産分与。
そして、
『大学進学費用として○○万円を支払う』
という項目。
銀行の振込記録まで残してあった。
息子は震える手で書類を見つめた。
そして母親に聞いた。
「これ、本当なの?」
元嫁は黙ったままだった。
「違うなら違うって言ってよ!」
それでも何も言わない。
沈黙が答えだった。
息子はさらに震える声で聞いた。
「じゃあ大学のお金は?」
元嫁は小さくうつむき、
「生活費で少し……。」
と言った。
「少し?」
息子が叫ぶ。
「全部じゃないか!」
元嫁は泣きながら言い訳を始めた。
「生活が苦しかったの!」
「あなたのためだったの!」
「仕方なかったの!」
すると息子は首を振った。
「僕のためじゃない。」
「僕のお金だった。」
部屋が静まり返る。
俺は息子を責める気にはなれなかった。
十年以上嘘を聞かされ続けてきた被害者なのだから。
俺は静かに言った。
「大学には行け。」
「学費は俺が直接大学へ払う。」
息子は驚いた顔で俺を見た。
元嫁は慌てて口を開いた。
「だったら一度私に振り込んで…」
「断る。」
俺は最後まで言わせなかった。
「一円たりとも、お前には渡さない。」
元嫁は言葉を失った。
俺は大学へ直接納付する手続きをその場で見せた。
これなら誰にも使い込まれない。
息子はしばらく黙っていた。
そして椅子から立ち上がると、俺に向かって深く頭を下げた。
「父さん……ごめんなさい。」
その一言で、十年以上積み重なっていた誤解がようやく崩れた。
俺は息子の肩を軽く叩いた。
「謝る相手は俺じゃない。」
「自分の未来のお金を勝手に使われた、お前自身だ。」
あの日失ったのは学費だけじゃない。
一番失ったのは、親として子どもから向けられるはずだった信頼
だった。