七年ぶりに、私は相沢麗子と同じ寿司屋のカウンターに座った。東大卒の元上司で、かつて私を「高卒のくせに」と見下し、能力不足の名目で切り捨てた人だ。
相沢は私を見るなり、口元だけで笑った。「随分いい店に来るようになったのね。誰かの奢り?」私は袖口を整え、「仕事の会食です」とだけ答えた。
握りが出される中、相沢は得意げに話し続けた。「あなたがいた部署、今は私が統括してるの。そろそろ部長になるのよ。あなたみたいな人を切って、組織を強くしてきた成果ね」
七年前、私は現場の改善案を何度も出した。だが彼女は資料も見ず、「高卒の意見に時間を割くほど暇じゃない」と切り捨てた。私は黙って寿司を飲み込み、静かに言った。「部長、おめでとうございます。では、あなたの会社を潰します」
相沢の手が止まった。「脅し? 高卒の逆恨み?」私は首を振った。「競争の宣言です。合法的に、正面から」
私は、独立して同業のBtoB領域でプロダクトを出していること、今日の会食相手が相沢の会社の主要取引先であることを告げた。
さらに、彼女の会社が抱える品質トラブルの火種を、製品と運用で取りにいくと伝えた。
相沢の顔色が変わる。「あなた、何者になったつもり?」私はまっすぐ見返した。「七年前、あなたが見下した“高卒の現場”が、どれほど強いかを学んだ人間です」
その時、相沢のスマホが震えた。通知を見た彼女の顔から血の気が引く。私は席を立ち、最後に頭を下げた。「七年前はありがとうございました。あなたが私を切ったから、私は会社の外で勝つ道を選べました」
店を出ると、夜風が頬を打った。復讐ではない。学歴で人を切り捨てた者に、現場で積み上げた者が勝つ。ただ、それだけの話だった。