夫の会社の社長から現金書留が届いたのは、ある寒い日の午後だった。
郵便局員さんから封筒を受け取った瞬間、私は思わず首をかしげた。差出人の欄には、夫が勤めている会社の社長の名前。会社から自宅に現金書留なんて、何かの手違いだろうか。それとも夫が何か迷惑をかけてしまったのか。胸の奥が少しざわついた。
仕事から帰ってきた夫に封筒を見せると、夫も驚いた顔をした。
「なんだ、これ……」
二人で封を開けると、中には丁寧に折られた手紙と、現金が入っていた。手紙には、社長の直筆でこう書かれていた。
「いつもご主人を支えてくださり、ありがとうございます。繁忙期を無事に乗り越えられたのは、社員本人の努力だけでなく、ご家族の理解と支えがあってこそです。ささやかですが、どうかご家族で温かいものでも召し上がってください」
読み終えた瞬間、私は言葉を失った。
ここ数か月、夫は本当に忙しかった。朝早く家を出て、夜遅くに帰ってくる日が続き、休日にも仕事の電話が鳴ることがあった。
疲れた顔を見せながらも、「今が踏ん張りどころだから」と笑っていた夫。その背中を見ながら、私はただ食事を用意し、洗濯をし、体を壊さないようにと願うことしかできなかった。
その小さな日々を、誰かがちゃんと見てくれていた。
夫は手紙を何度も読み返し、少し照れたように笑った。
「うちの社長、こんなことする人だったんだな」
その声は、いつもより少し柔らかかった。
現金の金額そのものよりも、そこに込められた気持ちが嬉しかった。社員だけでなく、その後ろにいる家族にまで目を向けてくれる人がいる。会社という場所が、ただ働くだけの場所ではなく、人を大切にする場所に思えた。
その夜、私たちは社長の言葉通り、近所の少しだけ良いお店で夕食を食べた。夫は久しぶりにゆっくりビールを飲み、私は温かい鍋をつつきながら、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
帰り道、夫がぽつりと言った。
「明日からまた頑張れる気がする」
私はその横顔を見て、そっと頷いた。
たった一通の現金書留。けれどそこには、お金以上の温かさが詰まっていた。人を大事にする会社には、きっとこういう優しさが自然に息づいているのだと思った。