
二十五年、私は我慢してきた。
だがある夜、夫・広が食卓で言った。
「俺さ、SNS始めたんだ。男も声上げないと損する時代だろ」
嫌な予感はすぐ現実になった。
夫の投稿にはこう書かれていた。
【専業主婦は寄生虫】
【女が社会をダメにする】
私は味噌汁を作りながら聞いた。
「広、これ何?」
「一般論だよ。刺さったなら図星ってことだろ」
娘の優菜が怒った。
「目の前に専業主婦いるのに?」
夫は笑った。
「女はすぐ感情的だな」
その日から夫はフォロワーを増やし、動画配信まで始めた。
「日本の男よ立ち上がれ!」
近所でも噂になり、私は言った。
「やめて。私たち外を歩けない」
夫は肩をすくめた。
「世間体ばっかだな」
数日後、夫はLINEで送ってきた。
――絶縁だ。離婚届置いといた。提出しとけw
私は静かに言った。
「分かった」
翌日、市役所に出した。
“寄生虫”と呼ぶ男と人生を続ける未来はなかった。
その後、夫はSNSで「自由になった」と騒いでいた。
だが三か月後、状況は変わった。
夫は家計を何も知らなかった。
口座もカードも、全部私が管理していたのだ。
投稿はこう変わった。
【カード使えない】
【銀行の手続き面倒】
【誰か金貸して】
ある夜、インターホンが鳴った。
ボサボサの夫が立っていた。
「美穂…やり直したい」
娘が冷たく言う。
「寄生虫とか言ってたの誰?」
私は静かに答えた。
「言ったでしょ。でもあなた聞かなかった」
そして最後に告げた。
「二十五年分の我慢、今日で終わり。もう他人よ」
ドアを閉めた瞬間、胸が軽くなった。
自由とは、声が大きい人が手に入れるものじゃない。
自分の足で立てる人だけが、静かに持てるものだ。