部屋に入った瞬間、違和感しかなかった。
ベッドが1つ。
セミダブル。
「……は?」
後ろから入ってきた友達も止まる。
「……え?」
2人で、もう一度部屋を見る。
どう見ても、1つしかない。
「お前、ツイン取ったって言ってなかった?」
「言った。いや、取ったはずなんだけど」
スマホを開いて確認する。
——ツイン。
ちゃんと書いてある。
そのままフロントに電話した。
「すみません、ツインで予約してるんですが」
少し間があって、返ってきた。
「申し訳ございません。本日は満室でして、変更ができません」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「いや、予約と違いますよね?」
「本日はすでに満室のため…」
同じ説明が、繰り返されるだけ。
ここで強く言っても、押し切られる気がした。
一度だけ、深呼吸した。
「確認なんですけど」
「はい」
「大人2人でこの部屋、適切だと思いますか?」
一瞬、沈黙が落ちた。
「……申し訳ございません」
やっと、“おかしい”って認識が共有された。
でも、それだけ。
何も変わらない。
「変更できないなら、どう対応していただけるんですか?」
少し間が空く。
「……」
「差額の返金とか、補償の話になりますよね?」
その瞬間、流れが止まった。
さっきまでスムーズだった会話が、急に重くなる。
「少々お待ちください」
電話は保留になった。
数分後——
別のスタッフが出た。
「上の者と確認いたしました」
声のトーンが、明らかに違う。
「今回、上位のお部屋をご用意できます」
一瞬、意味が分からなかった。
「スイートタイプのお部屋に変更させていただきます」
思わず友達と顔を見合わせる。
さらに続けて言われた。
「また、今回の件のお詫びとして、ご宿泊料金は頂きません」
……え?
さっきまでのやり取りが、全部嘘みたいだった。
「満室で変更できません」って言われてたのに、
普通に部屋、出てきた。
それもスイート。
案内された部屋は、さっきとは別世界だった。
広いリビング。
余裕のあるベッド。
同じホテルとは思えない。
ドアが閉まった瞬間、
2人で同時に笑った。
「さっき満室って言ってたよな」
「言ってた」
「普通に出てきたな」
「しかもスイート」
しばらく笑いが止まらなかった。
落ち着いてから、ふと思った。
これ、多分——
何も言わなかったら、そのままだった。
セミダブルのまま。
補償もなし。
説明も曖昧なまま。
でも実際は、
部屋も出てきたし、対応も変わった。
最初からできなかったわけじゃない。
“言われるまで出さなかった”だけ。
そう思った瞬間、少しゾッとした。
クレームを言いたかったわけじゃない。
ただ、予約通りにしてほしかっただけ。
でも——
言わなかったら、何も変わらない。
言ったから、変わった。
それだけの話。