父が亡くなる直前、かすれた声で言った。
「じゃがりこが食べたい」
家族全員が顔を見合わせた。
父がそんなお菓子を食べている姿なんて、誰も見たことがなかったからだ。
慌てて買ってくると、父は一本だけ小さくかじり、少し笑った。
「懐かしいな」
その意味が分かったのは、葬儀の後だった。
母が古い引き出しから、一枚の写真を見つけた。
そこには幼い私が、父の膝の上でじゃがりこを差し出している姿。
裏には父の字で、
「初めて娘が“半分あげる”と言ってくれた日」
と書かれていた。
父が食べたかったのは、お菓子じゃなかった。
あの日の私との時間だった。
最後まで父の中に残っていたのが、そんな小さな思い出だったなんて。
涙が止まらなかった。