
「立てよ!みっともない!」
電車の優先席に座っていたら、突然見知らぬおじさんに怒鳴られた。
「若いくせに何座ってるんだ!」
「元気そうなのに恥ずかしくないのか!」
車内の視線が一気にこちらに集まる。
スマホを見ていた人たちも、みんな顔を上げていた。
ああ、またか。
見た目だけで「健康な若者」と決めつけられるのは、正直珍しくない。
でも、いきなり大声で責められるのはやっぱり気分のいいものじゃない。
「若いなら立て!」
おじさんはさらに声を荒げる。
私は何も言わなかった。
説明もしなかった。
ただ、黙って足元に手を伸ばした。
そして――
義足を外した。
ほんの数秒の動きだった。
でも、その瞬間、車内の空気が一変した。
さっきまで怒鳴っていたおじさんの顔が、目に見えて青ざめる。
口を開いたまま、言葉が出てこない。
周りの視線も、今度は私ではなくおじさんに向いていた。
さっきまで「非常識な若者を注意している側」だったはずの人が、
一瞬でただの思い込みで怒鳴った人になった。
おじさんは何か言おうとした。
でも結局、言葉にならないまま黙り込んだ。
私は静かに義足を戻して座り直した。
優先席って、本来は「見た目では分からない事情」も含めて配慮する席のはずだ。
でも一部の人は、自分の目で納得できる人にしかそれを認めようとしない。
その日、私は何も言い返さなかった。
ただ一つだけ確かなのは――
あの車内で一番みっともなかったのは、優先席に座っていた私じゃなかったということだ。