義父が亡くなり、遺産相続の話をすることになった。
家族全員、ある程度は予想していた。
土地や家、預貯金。
それをどう分けるのか。
もちろん、兄弟で話し合いになると思っていた。
ところが、遺言書を開いて全員が驚いた。
そこに書かれていた内容は、
「土地建物、預貯金などの財産は次男と三男へ」
というものだった。
つまり、私の夫と義弟が相続するという内容。
そして、長男である義兄については何も書かれていなかった。
その瞬間だった。
義兄嫁が突然声を上げた。
「え!? なんで!?」
「長男なのに何もないってどういうこと!?」
「おかしいでしょ!」
まるで自分が財産を奪われたかのような勢いだった。
正直、私も最初は驚いた。
普通なら長男にも何か残すものだと思っていたから。
でも、義父には理由があった。
後から分かったことだが、義父は生前、義兄嫁の両親にかなりの金額のお金を貸していた。
しかも、その額は義兄が本来相続するであろう金額を超えるほどだった。
義父の考えはこうだったらしい。
「長男の取り分になるはずだった分は、すでに義兄嫁側の親に渡っている」
だから、その借金を返済請求しない代わりに、義兄への相続はなし。
そういう形にしたのだ。
ただ、一番問題だったのは、その事実を義兄本人も知らなかったことだった。
義兄はその場で初めて知った。
「俺の知らないところで、そんな話になっていたのか」
と。
当然、夫婦関係にも影響した。
なぜなら義兄嫁の親が借りたお金は、義兄本人の財産にも関わる話だったから。
その後、二人の間では離婚話まで出ているらしい。
そんな中、義兄嫁から私のところへ連絡が来た。
最初は何か相談かと思った。
でも、話を聞いて驚いた。
「身内同士のお金の貸し借りなのに、借用書を書けって言ってきたから変だと思ってたのよ」
「借りたお金はもうないし」
「お義父さんのお金を当てにして生活の計画も立てていたのに」
そして最後には、
「あなたたちがもらった分、少しでいいから私に渡してくれない?」
と言われた。
私は思わず聞き返した。
「ちなみに……ご両親は、そのお金をどのくらい返済されていたんですか?」
すると、突然電話が切れた。
それ以上、何も言わなかった。
後から間に入ってくれた人に聞いた話では、おそらく返済はほとんどされていなかったらしい。
もしかすると、一度も返していなかった可能性もあるという。
そう考えると、以前から少し気になっていたこともあった。
義兄嫁の親が乗っていた高級車。
義兄嫁とその母親が嬉しそうに見せていたブランドバッグ。
「あれって、もしかして……」
そう考えてしまう自分もいた。
もちろん本当のことは分からない。
ただ、義父が簡単に大金を貸すような人ではなかったことだけは知っている。
なぜ義父が義兄本人に話さなかったのか。
それは今でも分からない。
もしかしたら、生前贈与のようなつもりだったのかもしれない。
あるいは、義兄嫁の実家と近く暮らしていた義兄夫婦を見て、
「もうそちらの家に入ったようなもの」
と思っていたのかもしれない。
これは私の勝手な想像だけれど。
ちなみに義兄は、兄弟の中で一番収入が高い。
義兄、義弟、夫の順番で、生活に困るような状況ではなかった。
だから義兄本人は、遺留分の請求もしないと決めた。
夫と義弟も、
「判子代として少し包もう」
と考えていたが、義兄はそれも辞退した。
一方で、義兄嫁は今でも納得していないらしい。
離婚問題よりも、遺産がもらえなかったことの方が気になっているようで、私や義弟家に何度も電話をしてくる。
でも私は毎回同じように答えている。
「夫のお金なので、私は何も分かりません」
と。
義父が残した遺言書。
表面だけを見ると、
「長男には何も残さなかった」
という話になる。
でも実際には、その裏側に長年のお金の流れや、義父なりの考えがあった。
そして一番大きかったのは、相続する財産の額ではなく、
「もらえると思い込んでいた人」と、
「すでに渡したつもりだった人」
の認識の違いだったのかもしれない。