「長時間の駐車はやめてくださいね」
大家さんがそう注意した時、Aは車の窓を少しだけ下げ、笑いながら答えた。
「あー、すんませんw すぐ動かしますんで」
その軽い返事を聞いた私は、正直嫌な予感がしていた。
アパートの裏手にある駐車スペースは、住人全員で使う荷下ろし用の共用場所だった。引っ越し業者や宅配業者、緊急時の車両も入るため、長時間の駐車は禁止されている。
しかしAは、注意された翌週、そこに車を置いたまま姿を消した。
一日、二日ならまだしも、三日経っても戻ってこない。
大家さんはワイパーに注意書きを挟み、掲示板にも「無断駐車はおやめください」と貼り紙をした。さらに、敷地の奥では古い物置の解体作業が予定されており、業者も車を動かしてほしいと何度も伝えていた。
それでもAの車は動かなかった。
一週間後、ようやく戻ってきたAの叫び声が、アパート中に響いた。
「はあ!?俺の車、何これ!」
見ると、Aの車は後部が大きくへこみ、窓ガラスも割れていた。
半壊と言っていい状態だった。
Aは顔を真っ赤にして大家さんに詰め寄った。
「弁償しろよ!勝手に壊したんだろ!」
そのまま半狂乱で警察に通報した。
だが、警察が到着して確認したのは、Aの怒鳴り声ではなく、防犯カメラの映像だった。
映っていたのは、Aが深夜にカラーコーンをどかし、「駐車禁止」と書かれた札を無視して車を停める姿。
そして数日後、強風で解体予定の古い物置の一部が崩れ、車に直撃する瞬間だった。
大家さんは静かに言った。
「だから何度も、ここには停めないでくださいと言いました」
Aはなおも食い下がったが、警察官に「まずは無断駐車と警告無視の経緯を確認します」と言われ、急に黙り込んだ。
軽く謝れば済むと思っていた一週間の無断駐車。
けれど、その代償は、想像以上に高くついたのだった。