結婚してから初めての連休。
私たち夫婦は、久しぶりにゆっくり過ごそうと高級ホテルへ泊まりに来ていた。
窓の外に沈んでいく夕日を眺めながら、静かな部屋で二人きりの時間を過ごす。
仕事や家事に追われる日常を忘れられるほど、穏やかで贅沢な時間だった。
夜になると、私たちは夕食をどうするか相談した。
本当は外へ食べに行く予定だったが、移動するのも面倒になり、そのままホテル内のレストランへ向かうことにした。
スタッフに勧められたコース料理を注文し、久しぶりにゆっくり会話を楽しみながら食事を終えた。
翌朝。
カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ました私たちは、荷物をまとめてフロントへ向かった。
フロントでは、スタッフが笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます。本日はチェックアウトですね」
私たちは頷き、部屋の鍵を返した。
するとスタッフが伝票を確認しながら言った。
「お支払いは三万円でございます」
私は思わず顔を上げた。
「三万円ですか? でも予約したのは二万円のプランでしたよね?」
スタッフは表情を崩さないまま答えた。
「はい。そちらは部屋代と夕食代込みの金額でございます」
私は首をかしげる。
「でも私たち、ホテルで夕食は取ってませんけど?」
するとスタッフは静かな声で続けた。
「お客様のお食事は準備しておりました。召し上がらなかったのはお客様のご都合ですので」
私は意味が分からず、隣の夫を見た。
夫も困惑した表情でスタッフを見返している。
さらにスタッフは淡々と言った。
「食事を無駄にしないため、別途ご請求させていただいております」
私は思わず声を荒げた。
「いや、だから食べてないんですって!」
するとスタッフは伝票を見ながら続けた。
「ですが、お二人は昨日お部屋で遊んでいらっしゃいましたので、その分を差し引いて一万円に調整しております」
私は一瞬固まった。
「は!? ちょっと待ってください! そんなことしてません!」
夫も眉をひそめる。
「どういう意味ですか、それは」
スタッフは最後まで真顔のままだった。
「お二人の楽しい時間を尊重した上での料金調整でございます。ホテルの方針ですので」
夫は深くため息をつくと、財布からカードを取り出した。
「……今回は払います。でも次からは最初に説明してください」
支払いを終えた私たちは、そのままホテルを後にした。
車へ乗り込んだ後も、私はどうしても納得できなかった。
「あれ、本当に正当な請求だったのかな……」
私が呟くと、夫は苦笑しながらハンドルを握った。
「まあ、変なホテルだったな」
結局、最後まで理由は分からなかった。
それでも、二人で顔を見合わせて笑った瞬間だけは、不思議と嫌な気持ちが少し薄れていた。