面接室は静まり返っていた。
私が前職の退職理由を答えると、面接官は少し驚いたような顔をした後、口元をゆがめて笑った。
その笑みに皮肉が混じっているのを感じながら、私は黙って視線を受け止めた。
すると面接官は、半ば呆れたように言った。
「たった1時間の残業で音を上げるようじゃ、やっていけないよ」
その瞬間、私は思わず息を止めた。
だが、すぐに勘違いだと気づき、落ち着いて言い返した。
「いえ、10時間です」
私はゆっくり強調して答えた。
すると面接官は一瞬言葉を失い、眉をひそめた。
「10時間?それはさすがに極端すぎるんじゃない?」
疑うような視線を向けられ、私は静かに続けた。
「はい。ほぼ毎日です。最初は耐えられると思っていました。でも、だんだん体力も気力も限界になりました」
淡々と事実だけを伝える。
すると、面接官の表情から笑みが消えた。
「それほど過酷な環境だったんですね……」
低い声でそう言うと、部屋に短い沈黙が落ちた。
私は不安を覚えながらも、黙って次の言葉を待った。
やがて面接官は椅子にもたれ、深く息を吐いた。
「転職を考えるのは理解できます。ただ、うちの仕事も決して楽ではありません」
その言葉に私は小さく頷いた。
厳しい仕事を避けたいわけではない。
ただ、壊れるまで働く人生を終わらせたかった。
私は姿勢を正し、はっきりと言った。
「前職の経験は無駄だと思っていません。だからこそ次は、仕事と健康のバランスを取りながら成果を出したいんです」
面接官はしばらく私を見つめた後、小さく笑った。
「なるほど。あなたのような経験をした人は貴重かもしれませんね」
その言葉を聞き、私はようやく肩の力を抜いた。
最初の嘲笑ではなく、今はきちんと話を聞こうとしてくれている。
そう感じることができた。
面接の終わりに、面接官は立ち上がり、私へ手を差し出した。
「次の選考でも、ぜひ話を聞かせてください」
私は静かに立ち上がり、その手を握り返した。
前職での苦しさは消えない。
それでも、あの経験があったからこそ、自分が何を求めているのか分かった気がした。
面接室を出た私は、長く息を吐いた。
不安はまだ残っている。
だが、それ以上に、今度こそ自分らしく働ける場所を見つけたいと強く思っていた。