「妊婦よりバッグが優先?」産婦人科で40分立ちっぱなし…最後は私の一動作で空気が変わった。
2026/06/25

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妊娠後期に入ってから、長時間立っているだけで腰は痛くなるし、お腹も張りやすくなった。

その日も産婦人科で順番を待っていたけれど、待合室には空いているように見える席がいくつもあった。

近づいてみると、座っているのは人ではなくバッグ。

持ち主は隣の席でスマホを見ている男性だった。

「バッグのための席なんだ……」

そう思うと、何とも言えない気持ちになった。

私は夫に小さな声で言った。

「付き添いの人も結構座ってるね。」

夫は困ったように笑いながら、

「まあ……でも言えないよ。」

と答えた。

その一言で、私はさらに悲しくなった。

知らない人が譲ってくれないことより、隣にいる夫が私のために一言も言えないことの方がつらかった。

待ち時間は40分を超えた。

腰が限界に近づき、私はゆっくりその男性の前まで歩いた。

何も言わない。

怒鳴りもしない。

私は自分のバッグを、その男性のバッグの上にそっと置いた。

私のバッグに押されて、男性のバッグが少しずれた。

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男性はようやく顔を上げた。

自分のバッグが一席を占領していたことに気付いたのか、慌ててバッグを抱え、

「あっ、すみません。」

と席を空けた。

私は静かに「ありがとうございます」とだけ言って座った。

その瞬間、待合室を見渡すと、バッグを置いていた人たちも次々と荷物を膝の上へ移していた。

誰かが注意したわけでもない。

でも、一人が気付けば空気は変わる。

帰り道、夫がぽつりと言った。

「俺、何も言えなかった……。」

私は少し笑って答えた。

「欲しかったのは、席だけじゃないよ。」

「私の隣で、『妊婦だから座ってください』って、一言言ってくれる勇気だった。」

あの日、一番重かったのは、お腹じゃなかった。

妊婦よりバッグが優先される空気と、その空気に何も言えなかった夫の沈黙だった。

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