採血の準備中、いつものMサイズのゴム手袋が近くになかった。
「まあ、Sでもいけるか」
そう思って無理やり指をねじ込んだ瞬間。
患者さんの目の前で、バチンッ!と豪快に破けた。
待合室まで聞こえそうな音だった。
患者さんの顔が、一気に不安そうになる。
そりゃそうだ。
これから針を刺す人間の手袋が、開始前から負けている。
沈黙に耐えられず、私はなぜか真顔で言った。
「気合い入ってるんで、自分」
自分でも意味が分からなかった。
患者さんは一瞬固まったあと、吹き出して笑った。
その後、ちゃんとMサイズを探してやり直したけれど、採血中ずっと患者さんが肩を震わせていた。
医療現場で大事なのは技術。
でも、とっさの謎メンタルも時々必要らしい。