「客だぞ!土下座しろ!」
店内に怒鳴り声が響いた瞬間、私はレジの横で固まってしまった。
相手は常連でも何でもない中年の男性客だった。注文を間違えたわけでも、商品に大きな問題があったわけでもない。ただ、対応した女子高生のアルバイトが、レシートの確認をお願いしただけだった。
それなのに男は急に声を荒げた。
「高校生のくせに生意気なんだよ」
「謝れ。土下座しろ」
「俺は客だぞ」
女子バイトの子は、顔を真っ青にして何度も頭を下げていた。声は震え、目には涙が浮かんでいた。それでも男はやめない。むしろ、彼女が怯えるほど得意げに言葉を重ねていった。
周囲の客も異様な空気に気づき始めた。けれど、誰もすぐには動けなかった。
その時、バックヤードから店長が出てきた。
普段は穏やかで、怒ったところなど見たことがない人だった。
しかしその時の店長は、表情がまるで違っていた。
店長はまっすぐ女子バイトの前に立つと、強い口調で言った。
「下がって。あなたが謝る必要は一切ない」
その一言に、彼女の目から涙がこぼれた。
男はさらに怒鳴った。
「店長なら教育しろ!客に逆らうのか!」
店長は一歩も引かなかった。
「お客様であっても、従業員に人格を否定する権利はありません。これ以上続けるなら、警察を呼びます」
店内が静まり返った。
男は一瞬言葉を詰まらせたが、まだ強がるように鼻で笑った。すると店長は、すでに手にしていた電話を見せた。
「録音も、防犯カメラもあります。どうされますか」
男の顔色が一気に変わった。
数分後、彼は小さな声で文句を言いながら店を出ていった。さっきまでの威勢は跡形もなかった。
店長は女子バイトに向き直り、静かに言った。
「怖かったね。でも、よく耐えた。今日はもう裏で休んでいい」
その言葉に、彼女は何度も頷きながら泣いた。
客だから何を言ってもいいわけではない。
働く人にも、守られるべき尊厳がある。
あの日、店長の背中は本当に頼もしかった。