カレー屋で会計をしていると、店長が小さな瓶を差し出してきた。
「赤ちゃん生まれたら、母乳の前にこれを飲ませて!」
中身は蜂蜜だった。
私は一瞬、冗談かと思った。
でも店長は真顔で続けた。
「昔から赤ちゃんには甘いものがいいんだよ。元気になるから」
妊娠中の私に、善意の顔で危険なことを勧めている。
背筋が冷たくなった。
「一歳未満に蜂蜜は絶対ダメですよ」
そう言うと、店長は笑った。
「大げさだなあ」
その時、隣で聞いていた常連らしき女性が立ち上がった。
「私、看護師です。今の発言、笑い事じゃありません」
店内の空気が凍った。
奥から出てきた店長の奥さんが、瓶を見て真っ青になった。
「あなた、他のお客さんにも渡したの?」
店長は何も言えなかった。
善意でも、無知な善意は人を傷つける。
私はその蜂蜜を置いて、静かに店を出た。