親戚の20代の娘さんが病気で亡くなり、先日その葬式に参列した。
私はその子と深い付き合いがあったわけではない。ただ、何度か会ったことがあり、「明るくて礼儀正しい子だな」という印象を持っていた。しかも美人で、人当たりもいい。年上にも可愛がられるタイプで、まさに“誰からも好かれる娘さん”という感じだった。
実際、式場には同世代の友人らしき女性たちが大勢来ていた。
祭壇には綺麗な遺影。
両親は泣きながら参列者に頭を下げ、
父親は震える声でこう話していた。
「娘は本当に優しい子でした」
「誰にでも好かれていて、友人にも恵まれて…幸せだったと思います」
会場の空気はしんみりしていた。
――その時だった。
後方にいた一人の女性が、
静かに前へ歩き出した。
最初は友人代表かなと思った。
でも、その女性は父親の隣まで来ると、
突然こう言った。
「私、この人にいじめられてたんですよね」
一瞬、
何を言われたのか理解できなかった。
会場の空気が、
本当に凍った。
女性はそのまま、はっきりした声で話し始めた。
高校時代、
故人からいじめを受けていたこと。
理由は、
「一人でいることが多かった」
「男子から人気があった」
そんなくだらないものだったこと。
毎日のように悪口を言われ、
登下校中にぶつかられて転ばされ、
砂や雑巾を投げられたこと。
そして、
故人は人に取り入るのが上手く、
周囲には常に取り巻きがいて、
誰も止めなかったこと。
女性は泣いていなかった。
怒鳴ってもいなかった。
むしろ驚くほど冷静で、
滑舌よく、
一言一言を噛み締めるように話していた。
だからこそ怖かった。
「娘さんが皆に好かれるいい子?」
「笑わせないでください」
「私は今でも恨んでます」
「死んだからって、
勝手に美化しないで」
その言葉に、
故人の両親は完全に固まっていた。
周囲の友人たちも、
誰一人反論できなかった。
私は後ろの席で、
ただ呆然としていた。
10年前のことを、
人はここまで鮮明に覚えているのかと思った。
でも同時に、
もしかしたら加害者側だけが
“終わった話”にしていただけなのかもしれない、とも思った。
葬式の空気は完全に壊れた。
もう誰も、
「いい子だったですね」
なんて言えなかった。
帰り道、
ずっとあの女性の言葉が頭から離れなかった。
いじめた側は、
昔のこととして忘れて生きていける。
でも、
いじめられた側は、
何年経っても終われない。
もしかすると、
本当に怖いのは、
“自分が誰かを壊した自覚がない人間”
なのかもしれない。